妖しき報告
「白裂王殿下、御拝謁賜り、心より感謝申し上げます。白裂国と黒忍国との国境付近にある要塞『白夜天』より遣わされた『白裂使節団』団長の累陰でございます。黒忍国との国境付近の情勢をご報告させていただきます。」
白裂を統べる国王の前に妖しく微笑む男が一人、傅くかのように頭を垂れている。
しかし、彼は今まさに、白裂内政を我が物にしようと企んでいた。
「そうか。では、報告を始めるが良い。」
白銀に輝く玉座に坐す白裂王は怪訝な顔を見せつつも、彼の話を遮ることなく報告を聞き始めた。
相手がたとえ、曲者に見えたとしても、姿形の妖しさのみを理由に排除することはない。
ましてや、白裂軍配下の要塞『白夜天』から派遣された使者なのだから、話を聞かずに帰すことなどなかった。
まさに一国を統治し、政を厳格に執り行う王としての姿がそこにはあった。
「黒忍国は南下政策への準備として、軍備増強を推し進めております。『白夜天』では此れを警戒して急速に軍拡を実施。しかしながら、依然として黒忍の想定兵力を遥かに下回っております。」
累陰は頭を垂れたまま、黒忍と要塞『白夜天』の現状を告げた。
その声音はまるで、本当に黒忍軍へ対して慄いているかのように震えていた。
「累陰と言ったな。黒忍は従来、我が白裂と険悪な仲を築いてはこなかった。特産品を巡る多少の貿易がありはしたが、軍を交えたことなど一度もない。貴殿の言う南下政策など、初耳だ。貴殿は本当に黒忍の現状を調査してきたのか?」
累陰の信じ難い戦慄とは裏腹に、白裂王は淡々と事実を述べた。
さらに、今までの白裂黒忍間における情勢から累陰に問いを投げ掛けた。
それは『白夜天』から報告をするために使者が来るという事前連絡のみを盾にして、新たな情報を呈する者への冷静な疑問であった。
すると、累陰は叫びつつ、膝をついていた右足を地に着けて立ち上がった。
「殿下、黒忍の悪政を前に私めを疑うのは最もでございます。しかしながら、私は白裂随一を誇る彼の大要塞『白夜天』より派遣された『白裂使節団』団長。もし、この眼をご覧になって尚、私めに対し、猜疑心を抱かれるのでしたら、是非ともこの頸を刎ね給え!」
怒号とともに数歩前に出ると、累陰は白裂王を見つめた。
それに合わせて、白裂王の周りにいた『親衛騎士』たちが驚愕の声を上げながらも王を庇うように前に出た。
中には剣を抜いている者もいる。
白裂王は冷静さを失わずに怒号を上げた彼を観察した。
人は目を見れば、その者の良し悪しが分かる。
白裂王の考えは自然と彼の眼へ視線を誘った。
しかし、その眼の中に深淵へ誘う常闇を見出すと、慌てて目を逸らした。
「…貴殿の伝えたいことはよく分かった。しかし、我の僅かな懐疑を理由に声を荒げるでない。御身を慎み給え。」
立ち上がった累陰を宥めると、彼にさらに問い掛けた。
「この悪しき状況下で、貴殿なら如何する?」
累陰は先ほどの恐れ慄いた様子とは打って変わって、自信に満ち溢れた表情で答えた。
「私なら、紅穂国に行軍を送ります。」




