表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/45

銀鉤のむすひ

「鎌士郎くん。獣の動きを止められるか?」

津雲は骸獣の動きから目を離さずに言った。

鎌士郎もその動きを捕捉しながら確かに頷いた。

骸獣を混乱させる為に、弓弦が飛び跳ねる。

攪乱(かくらん)の為の矢を立て続けに放った。

鎌士郎は決して骸獣の爪の餌食(えじき)にならないように、鎖を振り回しながら捕縛(ほばく)の機会を窺っている。

「氷柱さん。僕が骸獣の脚を崩すから、その隙を突いて奴の(くび)を斬ってくれ。」

津雲が叫ぶ。

師匠の大剣を扱い慣れていない津雲にとって、この中で最も鋭い攻撃を与えられるのは、日々、己の愛する刀身を研ぎ澄ませているであろう氷柱以外にいなかった。

氷柱は軽く分かったわ、と言うと、精神を集中させ始めた。

冬の訪れを告げる初雪のように。

(ある)いは、微睡(まどろみ)の朝日を浴びる霜柱のように。

その澄み切った心象を津雲らは『(しろがね)(いと)』を通して感じ取った。

いつの間にか、少年ら三人は氷柱に対して尊敬の念を感じていた。

弓弦の放つ幾つかの矢が骸獣の頭蓋骨を(かす)めた。

すると、骸獣はそれらの弾道を遡上(そじょう)し、ゆっくりと振り返りながら弓弦を(にら)んだ。

頭蓋骨に穿(うが)たれた二つの虚空が弓弦を見詰めている。

反撃を加える為に、骸獣は空中を舞う狩り人に向かって突進した。

今まで幾つもの相手を戦術的に翻弄(ほんろう)してきたであろう剣弓。

それを愛用している弓弦なら、衝突を回避する為に壁を蹴って骸獣の側面へと回り込む策くらいは思い付くはずだ。

しかし、弓弦は()えて、その場で追撃の弓を引いた。

数秒後の未来にて、鎌士郎の鎖鎌が骸獣の胴を捉えると、『(しろがね)(いと)』を通して伝達されたのだ。

弓弦が骸獣の気を引き続ける限り、鎌士郎が狙われる事はない。

同時に、鎌士郎が骸獣の胴体を縛り付けるのなら、弓弦がその兇刃(きょうじん)にかかる事はないのだ。

お互いを信頼する関係が『(しろがね)(いと)』によって築かれていた。

弓弦が作った時間を使って、鎌士郎は遂に骸獣の胴体へ向けて、鎖に接続された鎌を(したた)投擲(とうてき)した。

津雲は『(しろがね)(いと)』に意識を集中させ、三人の動きの把握しながら、いずれ来るであろう骸獣の脚元へと走り出した。

()を描いた鎌は肋骨(ろっこつ)の隙間に突き刺さり、鎖が一瞬にして張り詰めた。

それを分かっていた鎌士郎は、骸獣の突進とは逆の方向へ鎖を思いっきり引っ張った。

全身の体重を乗せて骸獣の進行を相殺する…!

鎌士郎の雄叫びが図書館地下に音響した。

肋骨が圧力に負けて粉砕されるまでの間、見事、骸獣の突進は無力化された。

それは津雲が終決(しゅうけつ)へ繋がる一撃を骸獣へ加えるのに、充分すぎる時間だった。

すでに辿り着いた骸獣の脚元で、津雲はかつて師匠から教わった炎をそれを教えた者の大剣に(とも)した。

火禱(ひまつり)(かが)()』」

白裂の隣国紅穂に伝承として伝わる九つの火禱(ひまつり)

その正体は古から一部の識者(しきしゃ)のみに継承されてきた形而(けいじ)上兵器『火柱(ひばしら)』の形成因子。

複合的な火禱(ひまつり)の奉納によって、科兎山(しなとやま)という霊峰(れいほう)において『火柱(ひばしら)』が形成された事は、津雲の記憶に今なお新鮮味を残していた。

しかし、津雲が放つそれは、幼少の時分に師匠より伝授された剣術としての奥義。

つまり、あくまでかつての幼き白裂皇太子は隣国の軍官に剣術を教わっただけなのである。

結果として、津雲の火禱(ひまつり)は『火柱(ひばしら)』を実際に喚起(かんき)した二人の少年(・・・・・)とは異なり、多分に自我が混載(こんさい)されている、()わば、我流。

しかし、火禱(ひまつり)搭載(とうさい)された、炎に変換された気迫があらゆるものを摧剉(さいざ)する打撃系統の衝撃伝播機関は、我流であろうが、異端であろうが、軍事転用によって(いろど)りを放つ事に違いはなかった。

その危険性故に、紅穂国家の軍事機密にすらならず、本質を知るものなど指折り数える程の極秘中の極秘。

一子相伝。

師匠が如何なる理由で白裂皇太子にその火禱(ひまつり)を教えたか。

皮肉にも津雲の手によって師匠が亡くなった今、真意は闇の中であるが、津雲にとっては幼少期に単なる剣術を()うただけなのである。

それが兵器としての本分を全うする事を彼が知ったのは、あの黒忍の刺客の入れ知恵を()てからだった。

本質を体感した今、津雲の振るう大剣は、一瞬、あの少年と同じ臙脂(えんじ)色に輝いた。

科兎山(しなとやま)戦役』の時と同じ光沢を放つ(うず)が、今は亡き師匠の大剣を()める。

確かに伝承の重圧を背負いながら、津雲は骸獣の左踝(ひだりくるぶし)に『(かが)()』を放った。

大剣は白骨に触れるや否や、それを砕き、辺りに散らせた。

津雲の火禱はなるほど、不完全ではあったが、骸獣の巨体を磐石(ばんじゃく)に支える健脚を貫通するほどに強靭な威力であった。

大いなる(むくろ)がゆっくりと、しかし、徐々に速度を上げながら地に伏せる。

まるで、大木がへし折れた時のように、静かさを(もっ)て上体が床へ近付いた時、(すべ)ての準備を整えた氷柱が冷たく言い放った。

「『(しろがね)氷雨(ひさめ)流』『銀鉤(ぎんこう)』」

瞬く間に鞘走(さやばし)った氷刃(ひょうじん)は、刹那、月影を跳ね返し、白兎(はくと)の如く輝きを放ったかと思えば、骸獣の硬く守られた頸骨(けいこつ)を抵抗なく斬り裂き、()ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ