氷釈
生きていたら熊のような姿をしていただろう骸骨は、唐突に放たれた光を受けて、憤るように咆哮を挙げた。
未だ失われていない爪を振り翳し、歯向かう者らを抉ろうとした。
鎌士郎はそれを防ごうと、骸獣の膝裏に向けて鎖に付いた鉄球を放った。
しかし、それは『銀の絃』から視ても弾かれることが予測された。
現に、その鉄球は骸獣の膝の骨に弾かれ、鎌士郎の元に帰ってきた。
それを受けて、骸獣が振り翳した爪を津雲が大剣の峰を用いて受け止める。
爪から伝わる重圧が津雲の全身に伝播した。
その痛みさえも、『銀の絃』はその他三人に共有を行った。
弓弦と氷柱が骸獣の腕に集中攻撃を浴びせる。
弓弦は壁を蹴りながら連続して矢を放ち、氷柱は薄氷家に伝わる刀技の内の一振りを構えた。
骸獣の圧力が爪と大剣を通して津雲にのしかかる。
弓弦の矢の幾つかが弾かれ、僅かな鏃が腕の関節を穿った。
それを『銀の絃』が事前に氷柱に伝達する。
「『銀氷雨流』『氷釈』」
氷柱が一点を狙う鋭い斬撃によって関節を砕いた。
同時に、津雲が爪を薙ぎ払い、ここぞとばかりに気魄を漲らせた。
「我流火禱…。」
その声が空間を通して、或いは、『銀の絃』を通して木霊する。
「『白繡火』」
その声を聞いた鎌士郎は、誰かを想うように目を見開いた。
十文字に斬り拓かれた骸獣の右肩は骨の欠片を散らせた。
骸獣の片腕は『銀の絃』の情報共有能力を通して見事な連携を見せた少年たちによって、あっという間に瓦解させられたのだ。
『銀の絃』はお互いの個性・特性・戦闘偏向を補い合うだけでなく、掛け合わせることによって爆発的な戦力を生み出すことが可能であるようだった。
それを確信した弓弦は思わず声を上げた。
「やったね。」
「油断しない方がいいわ。」
咄嗟に、氷柱が気の緩んだ弓弦を牽制する。
骸獣は未だ倒れてはいなかった。
むしろ、胸に秘めた火の玉は激情を呈するが如く燃え上がった。
心なしか、爪や牙も震えているように見える。
骸獣は再び怒号を発すると、残された左腕を大袈裟に振り上げた。
力任せに虚空を斬り裂く。
返す力で背後を払い、回りながら周囲の風を斬る。
その様子は、感情的に暴れ狂う獣そのものだった。




