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弓と鎌と謀

我に帰ると弓弦はあの教室にいた。

「あなたたちを【王立白裂銀海学園】『特別軍事支援課』へと編成するわ。」

女性が何かを言っている。

聞こえない。

弓弦は父親によく分からない学園へ入学させられた後、誰の声も聞こえなくなっていた。

ただ、何かの罪に(おび)えるように弓の鍛錬(たんれん)だけは続けた。

矢を放っている時だけが、逃れられぬ罪を忘れられる時間だった。

しかし、的に刺さった矢を見る時だけは心のどこかが悲鳴を挙げた。

それはどこかの少女の悲鳴のようにも聞こえた。

それを忘れるように、また弓を()った。

『特別軍事支援課』の中であの(いや)しき王の愚息(ぐそく)を見付けるまで、彼は(ほとん)ど誰とも会話をしなかった。

弓弦が津雲を見た瞬間、心の底から殺気立った。

それは彼が理不尽な命令を下した王の愚息だったからだった。

白裂、紅穂、黒忍…。

この世の(すべ)てが嫌になって、弓弦は(はかりごと)を始めた。

その謀が鎌士郎の目に留まり、集約し、最終的に学園図書館の地下室まで伸びたのだった。


四人は行く先の見えぬ哀しみを対処しきれない虚しさに駆られていた。

弓弦は対話の中で津雲だけを責めても仕方がないと薄々気が付いていた。

しかし、理不尽な戦乱を生み出した王の愚息を、断罪を()ないまま(ゆる)す気にはなれなかった。

それが泣き声に満ちた空間を生み出していた。

津雲。

弓弦。

鎌士郎。

そして、氷柱。

四人全員、自分の罪を自覚し、しかし、(あがな)えずにいた。

一頻(ひとしき)り泣いた後、覚悟を決めたのは少女だった。

「貴方たちは責め合うべきではないわ。だって、同じ国に住む人だもの。」

少年たちは沈黙を破れなかった。

「それに貴方たちが和解し合うためにも『特別軍事支援課』があるんじゃないのかしら。」

鎌士郎が()に落ちない様子を怒りに変換した。

泣きながら歯を噛み締める。

「ボクは少なくとも白裂王の事は赦せない。…いや、違う。ホントは違うんだ。」

氷柱が階段から降りて弓弦に歩み寄った。

暗闇の中でも白く輝いている細い手で、弓弦の手に触れた。

「弓弦さん。貴方のことは聞いてるわ。戦役で大切な仲間を失ったそうね。」

弓弦は再び涙を溢れさせた。

「違う。違うんだ。ボクが悪いんだ。ボクがカレを殺したんだ。ボクが、ボクが弱いから…。」

氷柱は弓弦の目を見詰めた。

弓弦は耐え切れずに目を逸らした。

「貴方は弱くないと思うわ。だって、ここまで歩んで来ているじゃない。仲間を失ったことを自分の所為にして、辛い戦場を見ても今を生きているじゃないの。」

氷柱の言葉は、弓弦の心の奥底に透き通り、彼自ら凍り付かせた感情を和やかに熔解し始めた。

氷雪の笑顔が津雲の罪悪感を(ゆる)ませたように、弓弦もまた、薄氷家の思いやり溢れる人情によって自らの罪と前向きに向き合い始めた。

「ボクは、ボクは…。」

弓弦の瞳から熱い(しずく)(あふ)れた。

嗚咽(おえつ)しながら心に秘めた言葉を(つむ)ぐ。

「ホントは白裂の為に戦いたかったんだ。」

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