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月を糾す者

「キミの皇位継承権を破棄してもらいたいな。」

津雲に衝撃が走る。

一国の皇太子が(みずか)らが()(おさ)める国の民に信頼されていないという壮絶な現実を目の当たりにしたからだ。

「分かるよ。キミの気持ちも。騙されたんでしょ。」

(かな)しむような顔を弓弦は見せてくる。

でもね、と、弓弦は切り返した。

「そんな情報把握能力じゃ、困るんだよ。ボクもバカじゃない。由緒正しい武家の出として、情報の扱いは学んでいるんだ。」

弓弦の正義を(もっ)て訴える表情はとても哀しく、冷たかった。

「キミも経験したでしょ。戦場では情報が一番大事なんだ。正しい情報を素早く手に入れられれば戦況を優位に動かせる。逆に、敵に騙されたら自分だけでなく、仲間にも害を及ぼすんだ。」

鎌士郎も(さと)すように静かな声で津雲に耳打ちする。

「皇太子なら尚更(なおさら)だ。貴様が黒忍兵に(あざむ)かれ、先生を(あや)めた所為(せい)で、『火柱』が形成された。軍だけでなく国家をも揺るがしたんだ。」

津雲が何かを言おうとした。

しかし、何の声も生まれなかった。

「白裂紅穂両国に親しくしてくれた先生を暗殺したことも(ゆる)されざる大罪だ。…だがな、それだけに(とど)まらず、貴様は『火柱』の形成すらも手伝ったんだ。それはつまり、敵国の軍事力増強を促したということだ。王族としてこれ以上の罪があろうか。」

二人の発言は理に叶っていた。

まず、黒忍の刺客、累陰(たかかげ)(たぶら)かされたことが問題だ。

白裂王ももちろん、その後の(のぞ)みである皇太子すらも黒忍に言い(くる)められた。

この時点で白裂国は黒忍に覆われたようなものだからだ。

現れた情報に対して適切な判断ができていないということが、証明されてしまったようなものなのだ。

白裂と紅穂を繋いでいた、言うなれば戦争を未然に防げそうな人物を(あや)めたこと。

白裂王族の一員でありながら、紅穂の兵器である『火柱』の形成の一端を担ったこと。

津雲のこれまでの経歴が彼の白裂皇太子という身分を揺るがす材料になっていた。

「だからさ、キミには白裂を導く素質がないんだ。情報を適切に扱う能力がないんだ。コレって皇位継承権を破棄するに充分すぎる理由でしょ。」

充分すぎる理由である事は津雲も理解ができた。

それ故に、津雲は泣いた。

それらの罪は重々認識していた。

しかし、国民に責められたのは初めてであった。

津雲は二人に対して、更にはその先の全ての国民に対して申し訳なく思った。

その想いが涙として溢れた。

しかし、同時にどうしようもない無力感に打ち(ひし)がれた。

ただ、言われるがまま、言い返すこともできずに累陰(たかかげ)に操られ、今も再び何一つ弁明できない己れの脆弱さに心が崩れ去りそうだった。

「ボクたちが編成された『特別軍事支援課』だか何だか知らないけど、キミはキミ自身の罪…ううん、キミたちの、王族の罪を背負えるのかな?

それすらできない状況で皇太子も何もないでしょ。

キミにとっては辛いと思うけど、『知っている人』の(ほとん)どはキミに反感を持っているんだ。

キミはその人たちに、『特別軍事支援課』の人たちに顔向けできるのかな?」

津雲の涙の向こう側で、(ある)いは、弓弦も涙を流していた。

否、その場にいる四人(・・)全てが感極まっていた。

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