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剣弓

憎んでいないと言った少年。

弓弦(ゆづる)

彼の持つ弓はただの弓ではなかった。

見る限り、弓の握りの両外側、本来なら竹や木で(しつらえ)られている()りの部分が鋭い刃になっている。

非常に便利な作りだと津雲は感じた。

その弓単体で、、遠くの林檎(りんご)を撃ち抜くことも、近くの(まき)を斬り裂くことも可能というわけだ。

武器として優秀だが、(かろ)やかな身の(こな)しが求められそうである。

「ああ、コレ?剣弓(けんきゅう)って云うんだ。撃ったり斬ったりできるから、すごい優れものだよ。キミも使ってみるかい?」

弓弦(ゆづる)はなんの緊迫感もなく、その剣弓と呼ばれた弓を渡してきた。

津雲は骨董品(こっとうひん)を扱うような変な緊張感を覚えつつ、その弓を受け取った。

両方に翼を(ひろ)げた()りは、確かに切れ味が良さそうである。

研ぎ澄まされた刃が闇夜に透き通る(わず)かな街灯を()ね返した。

触れれば斬れそうな銀色の()りは、思わず振り下ろしたくなる怪奇(かいき)な魅力があった。

「美しいな、この刃は。」

「そうでしょ。結構強いんだよ。」

「そうか。扱いは難しくないのか?」

弓弦(ゆづる)はその問いを聞くと、(おもむろ)に口角を上げて得意げに笑った。

「えへへ、ボクにかかれば朝飯前さ。遠くにいれば撃つ。近くにいれば斬る。その均衡が美しいのさ。」

弓弦(ゆづる)はこの上なく嬉しそうである。この剣弓と呼ばれた武器に格別なこだわりがあるのかもしれない。

「そうか、そうか。この弓はどこで手に入れたんだ?僕は今まで見たことも聞いたこともなかったが。」

津雲はここぞとばかりに質問を重ねた。この剣弓に関する話をする限り、弓弦(ゆづる)のご機嫌が取れそうだと判断したからである。

現に、弓弦(ゆづる)は津雲の質問を聞いて飛び跳ねた。

「よく聞いてくれたね。そもそも、ボクのお家はね、代々、武術に(ひい)でた人がたくさんいてね。コノ剣弓もボクのお(ばあ)ちゃんが…。」

弓弦(ゆづる)は照明のない地下の広場で、太陽のように(はしゃ)ぎはじめた。

弓弦(ゆづる)が騒げば騒ぐほど、津雲の後ろに立つ鎌士郎(れんしろう)の機嫌が悪くなった。

同時に、彼の持つ鎌が津雲の(くび)に近付く。

「津雲くん。やっぱり、ボクのお(ばあ)ちゃんは白裂の…。」

「おい。弓弦(ゆづる)。そろそろ本題に入るぞ。」

津雲と弓弦(ゆづる)の会話を後ろから見ていた鎌士郎(れんしろう)が、遂に(しび)れを切らして話しかけた。

すると、弓弦(ゆづる)は忘れていた大事なものを思い出したかのような衝撃を表情に表した。

「あ、そうだった…。コ、コータイシ!よくもボクを(たぶら)かしたな。」

頬を赤く(にじ)ませながら地団駄(じだんだ)を踏んだ。

羞恥(しゅうち)を隠すように両手を強く握っている。

「いや、弓弦(ゆづる)くんが…。」

「うるさい!本題に入るぞ。もう!」

叫び声と共に勢いよく振り返り、津雲に背を見せた。

「皇太子、貴様を呼んだ理由はただ一つ。」

鎌士郎(れんしろう)が低い声でゆっくりと本題に入った。

鎌士郎(れんしろう)の言葉を受け継いで、弓弦(ゆづる)が今までにない神妙な声音(こわね)で呟く。

その言葉は津雲にとって衝撃的な一言だった。

「キミの皇位継承権を破棄してもらいたいな。」

春の風に誘われたので失踪します。

次回投稿予定は約1〜2ヶ月先の予定です。

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