表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

深海魚

作者: 工藤一将

「すごい! 透きとおるような白身に、こんなに旨味がつまっているなんて。初めて食べました」

 青年は、名も知らぬ魚の刺し身を口いっぱい頬張っていた。小料理屋のカウンター。遅い時間、十人ほどでいっぱいになりそうな店内に客は青年だけ。

「それにしても、あの見た目から、この旨さは想像できませんね」

 この地方で、しかもこの季節しか食べられない珍味と聞いて、青年の感想も何割増しかになった。大手ハウスメーカーの営業職で地方に出張する機会が多い青年は、出張先のグルメを味わうのが趣味だった。

「見た目と味は関係ないよ。魚も人間も」

 初老の主人は、店じまいの手を休めることなく、そう言った。「珍しいものを食べたい」という青年の要望にこたえ、閉店間際にも関わらずさばいてくれた。調理前の魚は焦茶色の肌に真紅の点が無数にあった。いかにも悪役という顔つき。大きさはサンマほどだが、目はピンポン玉ほどに膨れ上がっていた。その目は青年を射すくめるようだった。

「たしかにそうかもしれませんね。人だって見た目だけじゃないですもんね。それにしてもうまいなぁ。これ宣伝したら、きっと名物のひとつになりますよ。これを目当てに訪れるひともでてくるんじゃないかなぁ。あ、こっちのアラの煮付けもいいですか」

 青年はこちらが答えるまえに、すでに箸をのばしていた。

「どうぞ。このへんの人は引っ込みじあんなところがあってね。宣伝っていうのはちょっと……。だからつぶやいたり、写真とかは勘弁してもらってるんだ。まぁ、いいんだよ。なんでもかんでも来る前にわかっちゃったら、つまらないだろう?」

「たしかに。新たな食との出会いは旅の醍醐味のひとつですもんね」

 数分で煮付けの皿は空になっていた。

「なんだかたくさん食べたら、眠くなってきたみたいだ。行儀が悪いですね、僕。疲れたのかなぁ……」

「少しうちで休んでいけばいいよ。上の座敷があいてるから」

 主人の親切が耳に届く前に青年は眠りに落ちていた。これなら、上の座敷に通すまでもないだろう。たしかに出会いは醍醐味だ。食も人間も。


 その後、青年の姿を見たものはいない。その小料理屋の近くには今もこんな看板が立っている。


【危険! この海でとれる魚には神経毒を含むものがいます。誤って食べた場合、速やかに病院を受診してください。食べてしまうと、眠気のあと、呼吸困難の症状を引き起こします。見た目は焦茶色で目が大きく……】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ