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ある日の受付

「いらっしゃいませ!」


 受付嬢は元気よく来店した少女を迎え入れる。

やってきた少女は綺麗なブラウンの髪を腰まで伸ばし、金色の目がきらきらしていた。

美少女だが顔にはまだ幼さが残っており、将来は美人になるだろうと思う顔立ちだった。


「本日は何をお求めですか?」

「ダンジョンを買いに来ました!」


少女がカウンターに身を乗り出した。


 "ダンジョン"それは"生きる迷宮"とも言われ、その内部には様々な環境、モンスターが存在している。それによって人間を倒した後喰らい成長すると言われている。

 冒険者たちはそんな千差万別なダンジョンに一攫千金を夢見て、古より戦い続けてきた。


…と、いうのも過去の話


 今まで続けられてきたダンジョンの研究が遂に実を結び、謎が残るもののダンジョンのコントロールが可能となった。

 そして今では個人資産として購入できるようになり、ダンジョンを運営する者、通称"ダンジョンマスター"を一般に認められている。


「お金ならあります!」


思索にふけていると再び声をかけられる。

意識を戻すと少女の顔が目と鼻の先にまで迫っていたが冷静に押し返し少女が踏み台にしている椅子へ座らせた。


「そうですか、しかしダンジョンを買うには12歳以上の大人でないといけないので…」


 ダンジョンは管理を間違えると災害となる、そのため教育を終えた大人である必要がある。

そのことを知らなかったのかな?と思い優しく笑顔で教えてあげた。

しかし、その子供にする対応が気に入らなかったのか、ふくれてしまった。


「私はもう12歳です!」


 少女はそう怒りながらもギルドカードを取り出し、こちらへ見せてくれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


リア・ミスリード / 女 / 12歳


ランク / E


スキル / 秘匿中


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「これは失礼致しました」


失礼だったのは事実なので素直に謝った。

でも12歳には見えない身長とこれまでの子供っぽい言動で、間違えても仕方ないのでは…と思ったが顔には出さなかった。


「それではダンジョンをお求めとのことで、ご予算はいかほどでしょうか?」

「はいっ、即金で500金貨あります!」


 少女、改めリアはカバンから金貨を取り出し、満足気に胸を張ってこたえた。

それもそのはず、これだけあれば数年は何もせずに暮らせる額である。

しかし家を買う場合は最低でも500からである。


「その金額ではすこし厳しいかもしれません」

「そうですか…」


 リアはそう言うとさっきまでの元気が嘘のように俯いてしまった。


きっと夢を叶えるためにお金を下してきたのだろう。

しばらくして慰めようと思った時、いきなりリアは顔をあげた。


「私には冒険者の母がいました。母はよく何日もダンジョンに潜っては色々な話を聞かせてくれました。その話をしてくれている時の母はとても楽しそうで、お金の為だけでなく冒険が好きだったんだと思います。

…でもある日、いつも通りダンジョンに潜りに行って、そのまま帰ってきませんでした。

ギルドには7日の探索予定を報告されていて、それから半年後になる昨日に死亡したと判断されて母の貯金が送られてきました」


語られたのはリアの過去だった。

過去というには最近の出来事で、話に悲しみが伝わるようで、拳にも力が入っていた。


「私にも分かっているんです。7日を予定した装備で半年も生きるなんて無理だって…

でも、もしかしたらって、思うんです。

母の話の中にはドラゴンを一人で倒した話もあったんです」


 そう、ダンジョンで装備がなくなって生き延びることは困難だ。

ドラゴンを倒す実力者であっても武器が鈍れば、四六時中襲ってくる魔物に警戒し続ければ、食料が肉だけになれば、水が見つからなければ…。

ダンジョンとは武力だけではどうにもならないことが多い。

だから多くの人はパーティを組むことによって一人当たりのリスクを減らし、分担するのだ。


「だから私がすごいダンジョンを作ればいつか母がふらっと帰ってきてくれると思うんです」


帰ってくるわけがない…

リア自身も本当に思っているわけではないようで、目標を作ることでやる気をつけているようだ。

しかし、リアの話にはもしかしたら、と感じさせる強さを感じる。


「…一つだけその金額で買えるものがあります」


 そう言った途端リアは顔を持ち上げ、輝かせた。

・街を出て何日もかかる場所にある

・道がなく馬車ではいけない

・見た目が古い山小屋、入り口がその角部屋

・小屋がダンジョンの一部になっているため建て直しができない

と次々に安いダンジョンである理由を教える。

詳しく教える度にリアの表情は徐々に暗くなっていく。


「…やめておきますか?」


 正直12歳になったとはいえまだ子供、そんな子にあんな危ない所に行かせたくない。

しかし決定権は向こうにある。諦めてもらうには最後のチャンスだった。


「いえっ!そこで、お願いします!」


 十分な資金と充分な購入意欲が揃っている現状、店側としては売らないわけにはいかない。


「わかりました。それではこちらのダンジョンマスター変更手続き書類に署名をお願いします」




こうして リア・ミスリード はダンジョンの管理者となった。

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