異世界メイド喫茶 ~婚約破棄を告げられ辺境の地に追放されたけど毎日頑張ってます~
「マリー、なんて恐ろしい資質をそなえているんだ。当然、君との婚約は無かったことにする」
バビロニア国四男カールは冷たく言い放った。
周囲からはクスクスと笑う声が聞こえる。
王宮内には城内重役から護衛兵であふれている。
そして、王宮の玉座に鎮座するバビロニア王と王妃は私の事を冷たい目で見ている。
「カール様! 違うんです!」
17歳の誕生日。
自らの魔法の才能を占う儀式。
左手で触れた魔法水晶は真っ黒に変化した。
「どうか! もう一度! チャンスをください!」
私がカールに近づこうとした時、目の前に4本の剣先が突き出された。
王直属の四銃士。
一瞬にして4人が私の目の前に立ちはだかった。
あと一歩でも動こうとすれば4本の剣は私の身体を一瞬にして貫くだろう。
「失礼だぞ! 剣をおさめよ!」
四銃士の師匠にしてバビロニア騎士団団長。
私に向けられた剣先の前へ現れ私の盾となった。
「アゼル!」
私が思わず名前を叫ぶとアゼルは振り返った。
「大丈夫。マリー様には指一本触れさせないから」
アゼルの笑顔は、こんな状況を忘れさせるほど私を安心させた。
「おやおや、これはどういう状況ですの?」
王宮へ甲高い声が響く。
みなから遅れて入ってきたのはイライザだ。
私の方を見ながらゆっくりとカール様の近くへと歩み寄った。
「イライザ姉さん! 魔法水晶の儀式の誤解をといてください!」
イライザ姉さんは、第一夫人の長女。
本来、カール様の婚約相手だったのが第三夫人である私が選ばれた。
それでも変わらず接してくれてたはずなのに……。
王族は王宮にて魔法水晶の儀式をとりおこなうが、事前に親族によりその資質を確認する。
触れた水晶が赤いなら炎の魔法の資質、青なら水、というように。
全属性の中で水晶が黒く染まってしまう事、闇の資質をそなえた者が出てしまった時のためだ。
イライザ姉さんが私の資質を確認してくれた時、水晶は確かに透明に変化した。
普段は少し青みがかっている水晶が、何も無いかのように透明へと変化したのだ。
「すごいわ! マリー! 透明になる資質は無属性! 1000万人に1人と言われる才能よ! やはり、あなたはカール様の正妃にふさわしいのよ!」
そう言ってイライザ姉さんは喜んでくれた。
私が触れた眼の前の水晶は真っ黒に染まっている。
「イライザ姉さん! 昨日見た私の水晶の色を答えてください!」
イライザ姉さんが答えてくれれば、もう一度、儀式のチャンスがあるはず。
なぜ、こんなことになったのか?
調べたらわかるはず。
イライザはカールへ腕を絡めると胸をおしつけ二人はイチャつきはじめた。
その振る舞いは私からカールを奪いとり勝利を誇示するようにも見える。
そして信じられない一言を発した。
「昨日、あたしが見た色も真っ黒に染まっていました」
イライザ姉さんはそう言うと大げさに泣き始めた。
「マリーは、みなの前でこの事実を公表し、どのような処置も受けると言ったのです。あたしは止めたのに
」
「え!? 違うっ! なんで!」
私の声を遮るようにイライザ姉さんは大きく泣き叫び言った。
「死罪ではなくルルド辺境地への追放で許して! 命だけは助けてあげて」
「うん、そうだな。やさしいなイライザは」
カール様はイライザ姉さんに言われるがまま返事をする。
「ま、まってください!」
「ええい! うるさい! マリー、お前は今からルルド辺境地へ追放だ!」
ルルド辺境地。
王国東の果て。
作物は、ほぼ育たず、未だに争いの絶えない地域。
魔獣や魔物と人間の争いも激しい場所。
ルルド辺境地へ追放されるぐらいなら死罪の方がマシだとさえ言われている。
「おやさしいわ! カール様」
イライザ姉さんはカールの胸へと顔をうずめた。
そして、こちらをチラッと見た。
その顔には涙の一滴も流れていない。
一瞬信じられない表情が見えた。
(え!? 今、少し笑った?)
「では、マリーはルルド辺境地への追放としよう」
一部始終を見ていた王様の決定が王宮に響き渡った。
これ以上ここに居ても仕方ない。
それに今まで王宮のためだけに生きた毎日。
たとえどんな場所でも自由になれるなら、それも良いかもしれない。
「わ、わかりました……」
私の返事が予想外だったのかカール様が少しあせったような表情をみせた。
「う、うむ。よいだろう」
カール様の弱々しい返事をかばうようにイライザが大きな声を響かせた。
「あ~ら。いさぎよいわね」
カール様に耳打ちしたと思ったら
すかさずカール様が声高に叫んだ。
「ルルド辺境地に女性1人とは危険がともなう。このカール様の兵士を1人だけ貸してあげよう」
カールの護衛兵士。
30人ほどが王宮の端に居るけど、とても兵隊とは思えない集団。
バイキングか山賊を思わせる容貌。
「へっへっへ。オレにまかせろ。おいしそうな姫様だぜ」
「おいおい、何を言ってるんだ。オレのもんだ」
「うほぉ~。いいケツしてんぜ」
護衛兵士の集団は口々に私をなめまわすように見て下品な言葉を発している。
「あ~ら、マリーさんと2人っきりの旅。大人気ですね」
イライザは高笑いした。
護衛兵士の集団は今にも襲いかかってきそうな野犬の群れのように吠え叫んでいる。
(私を襲わせる気なんだ……)
これなら本当に絞首刑なり死罪の方がよっぽど楽かもしれない……。
目の前には四銃士。
後ろからは護衛兵士の集団がジリジリとにじりよってくる。
「大丈夫。行こう」
「え?」
いつの間にか私はアゼルに抱きかかえられていた。
「きゃっ!」
一瞬、空中に浮かび上がったと思ったら王宮の出口に移動していた。
「ア、アゼル! お、お前、何を!」
カール様が体を震わせながら叫んだ。
「お前達! 止めなさい! 生死は問いません!」
イライザが叫ぶと護衛兵士達が槍を投げつけてきた。
「ア、アゼル! 危ない!」
「大丈夫、安心して」
目の前で次々と槍が見えない壁にぶつかったように弾かれ地面に落下している。
「さすが絶対防御光壁のアゼルと呼ばれただけはありますね」
まるで最初からそこに居たように四銃士の一人ジャン様が立っている。
疾風のジャンと呼ばれるほど四銃士最速と言われている。
いくらアゼルでも逃げ切れるのか……。
「アゼル様、マリー様、後のことは我々におまかせください。うまくおさめておきます」
「え!? どうして? 四銃士のみなさんはアゼルが恩師だとしても私はただの従者のようなもの、今や追放の身です」
「マリー様、我々四銃士はあなたの日々のお仕事に助けられました。
城内の清掃から健康的な食事。
あなたが城へ来てからずっと快適な環境を維持されていました。
感謝しています」
ジャン様は深々と頭を下げた。
「そ、そんな、こちらこそありがとうございます」
ジャン様は頭をあげると笑顔で挨拶した。
「それではお急ぎください」
「ありがとう。ジャン」
アゼルはジャンへお礼を言うと私の方を見て微笑んだ。
「行こうマリー」
一瞬にして王宮は後方に消え、
アゼルと私を止める声を置き去りにした。
「はやくあいつらを止めなさい!」悲痛でヒステリックなイライザの声はひときわ大きく響いた。
何も聞こえないかのようにアゼルは私を抱きかかえたまま空を飛ぶようにルルド辺境地に向かった。
◇◇◇
「ここまでで大丈夫」
私はアゼルの歩みを止めるように前に出て言った。
「今から戻ればアゼルなら許してもらえるわ」
私は追放された身。
けど、アゼルは王宮内での重要な役割があるし何よりバビロニア王国な貴重な戦力だ。
国王様もカール様も戻ってきて欲しいと思っているに違いない。
あたりは人影も無い場所。
生い茂る木々からいつ魔物が襲ってくるかわからない。
アゼルが一緒に居てくれるならこれほど心強いことはない。
「僕も辺境の地で、また1からやり直そうと思ってるんだ」
「え!? どうして!?」
アゼルの意外な一言に驚いた。
「魔法の資質だけでマリー様を追放するなんて許せない。
マリー様が、ずっと僕たちのために働いてくれた事実をたった一度の儀式だけで追放するなんて。
いや、これまでだって不当な政治や裁判がいくつも行われていた。
僕はみんなが平等で楽しく過ごせる場所を作りたいんだ」
アゼルの目は真っ直ぐで、真剣な表情にすぐに言葉も出なかった。
「そしてこの目的のために必要なのはマリー様の力なんだ」
アゼルはそう言うと私の肩をに手を置いて真剣な表情で見つめてきた。
◇◇◇
寝室でイライザがカールに当たり散らしている。
「くそおおお! なんなのよ! なんでアゼルがついてゆくのよ!
マリー(アイツ)の資質を闇の属性にするためどれだけ金がかかったと思ってるのよ!」
イライザはまわりの物にあたり散らし食器や置物が次々と壊れてゆく。
「イ、イライザ、落ち着いてよぉ!」
カールはあわてふためくだけで何も出来ない。
この日、一晩中カールはイライザをなだめることとなった。
この後、マリーとアゼルによる辺境の地が発展するのは、そう遠くない未来の出来事である。
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