幕間 七海の転生
本日三話投稿の二つ目です。
「あのねっ!……」
流星に向かってそう言った瞬間、私の眼に飛び込んできたのは、道路に飛び出す子供と、あり得ないスピードで走るトラックだった。
このままじゃ子供にぶつかる!
そう思ったときにはもう、私の身体は動き出していた。
正直、自分で自分のことを呪う。
なんで動き出しちゃったんだろう。
まだ流星に好きだって伝えれてないのに。
そんなことを考えながら、私はしっかりと子供をはじき飛ばす。
その瞬間、私の身体には大きな衝撃が走った。
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気が付くと真っ白な空間にいた。
死んだんだ。
私はそう思った。
何もない真っ白な空間で途方に暮れていると、突然目の前に神様を自称する少年が現れた。
そこで自分が死んだ理由を聞く。
異世界とこちらの世界はつながっている?
私の半身が異世界で勇者?
魔王と戦って死んだ?
魔王を倒せるのは私だけなので異世界に転生してもう一度戦ってほしい?
正直訳が分からなかった。
だけど、神様は最後に言った。
「魔王を倒せたらちゃんと元の世界に戻して生き返らせてあげる」
その一言で異世界に行くことを決めた。
絶対に魔王を倒して、もう一度流星に会うんだ。
次に目が覚めた時、私は異世界にいた。
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そこからは激動の日々だった。
勇者に選ばれ、修行を経て、仲間とともに魔王討伐の旅へ。
楽しいことはもちろんあったが、正直辛いことのほうが多かった。
魔王退治に関係あるのかという戦いに駆り出されることもあった。
それでも、もう一度流星に会いたい。
その一心で突っ走ってきた。
そして、少なくない犠牲を出しながらもやっと魔王のもとへたどり着く。
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「ようやくたどり着いたわ。世界のため、そして私のために『魔王』あなたを倒させてもらうから!」
「倒す?倒すだと?はっ、面白い冗談を言えるのだな勇者というのは」
「冗談なんか言わないわ。今、ここで、あなたは死ぬのよ。神に祈る時間は済んだかしら?」
「ふっふっふ、本当に冗談がお好きなようだ。神に祈るのはそちらのほうじゃないか?助けてくれる神がいるのならばな」
勝てると、勝つんだと思っていた。
実際に魔王に会うまでは……
あまりの圧力に、魔王と話している時にはもうすでに勝てるという気持ちはどこかへ消えていた。
それでも戦って勝つしか道はない。
私の号令で戦いが始まる。
やはり、実際戦ってみると魔王と私たちの間には天と地ほどの差があった。
奮闘むなしく、仲間たちが一人、また一人と散っていく。
いつの間にか私が最後の一人になっていた。
負けられない!
負けたくない!
気持ちだけでどうにかなるような差ではなかった。
結局私にも最期の時が訪れてしまう。
ただの魔力の塊。
しかし、それが大きな差を物語っている。
膨大な魔力が飛んでくる。
なすすべなく倒され、死にゆく私の眼にはなぜか残念そうな魔王が映っていた。
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私は再び目を覚ました。
私はまた異世界で生まれた時に戻っていた。
だけど自分の身体なのに自由に動かすことも話すこともできなかった。
ただ、目の前に広がっているのは懐かしい光景だった。
一つを除いては……
流星!?
異世界での幼馴染の名前がリューセイという名前になっていた。
一度目はアーロという名前だったのに。
名前が一人だけ違うのでとても不思議だ。
自分で動くことができないまま時は流れていく。
時が経てば経つほどリューセイは流星だという確信が深まっていく。
だとすれば流星は死んだんだろうか?
神様にもあったんだろうか?
様々な謎が脳を駆け巡る。
そして何も出来ないまま三年が経ったある日……
「リュー!私リューのこと大好き!」
自分で自分が言った言葉を理解できなかった。
この子は私なのよ?
だからこの子が言ったってことは私が言ったってこと?
私、流星に好きって言っちゃった!?
などと、よくわからない論理を頭の中で繰り広げながら私は一人混乱していた。
だがこの無邪気な自分に嫉妬した。
私が長年言えなかった言葉をさらっと言うんだもの。
自分で自分に嫉妬するなんて……
そして次の日、事件は起こった。
ナナミ!動きなさい!
どんなに中で叫ぼうとも私は腰を抜かして動けないでいる。
リューセイは一人でなんとかキラーウルフから逃げている。
しかし私は知っている。
このキラーウルフは遊んでいる。
本気を出したキラーウルフはもっと速いのだ。
そんなことを知らないリューセイから飛んだ私への指示はいったん引くこと。
キラーウルフの最高速度がそのままなら至極まっとうな指示だ。
私も行けると思ったのか村へ帰ろうとする。
そこからは、怒涛の展開だった。
私が襲われかけ、リューセイが注意を惹き、そして今、リューセイが襲われそうになっている。
私は何とか動こうとする。
流星が危ない。
私!動け!
神様に願いが届いたのか私は私になり、私は突然動けるようになった。
「もう大丈夫よ流星!ここは任せて!」