第四話 魔獣との邂逅
本日三話投稿の一つ目です。
リーン村近郊の森
アレクとクレイグが森の見回りをしていた。
冒険者時代の勘をなくさないようという目的もあるが、主には村の安全のために毎朝見回りを行っていた。
「おいクレイグ、今日少し雰囲気が違くないか?」
「そうか?髪の毛切ったからな」
髪の毛をいじりながらクレイグは答える。
「馬鹿野郎、お前のことじゃねえよ。森だ、森」
「森かよ、うーん、確かに言われれば少し嫌な雰囲気がするような気も……でも気のせいじゃねえか?」
「そうか、ここらで魔物に会うことはめったにねえしな、まあ、注意だけはしておくか」
「そうだな」
十分に警戒をしながら森を散策するも、何もなく見回りを終える。
二人は森の入り口まで帰ってくるとふっと警戒を緩める。
「何もなかったな」
「ああ、何もないのが一番だ」
「それじゃ今日も農業に精を出しますか」
「ああ、そうだな」
見回りを終えた二人は家への帰り道を急ぐ。
今日も一日が始まる。
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今日も朝の勉強会が終わるとナナミと二人森に来ていた。
昨日の夜、ナナミの言葉が気になって俺は一睡もできなかったが、ナナミは今日も元気いっぱいだ。
昨日のことを気にしているのがあほらしく思えてくる。
「今日は何するの?かくれんぼ?」
「かくれんぼしてもいいけど、全部負けちゃうよ?いいの?」
「勝つもん!」
俺が煽るように言うと、ナナミは頬を膨らませて意気込む。
「いいよ、じゃあやろうか」
今日もかくれんぼが始まった。
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「リュー見っけ!」
「げっ、早い!」
「どう?今回は私が勝ったよ」
初めてナナミにかくれんぼで負けてしまった。
ナナミがどや顔で勝ち誇ってくる。
ナナミは隠れるのは相変わらず下手だが、持ち前の運動能力で見つけるのが以上に早くなっていた。
勇者の片りんなんだろうか……だとしても、こんな遊びで出さないでほしい。
「まだ一回だけしか負けてないし」
「次も勝つもん!」
一回勝ったことでナナミは調子に乗っている。
流石に身体能力の差は大きい、次は大人げない手で勝つしかないな。
「できるものなら……なっ?」
ナナミと言い合いをしていると、ナナミの後ろの草むらから突然野生の狼を大きくしたような魔獣が飛びだしてくる。
「ナナ!危ない!」
魔獣は飛び出してきた勢いそのままに俺たちに向かって突っ込んできた。
俺はとっさにナナミを抱えながら横に飛んで魔獣の攻撃をよける。
魔獣の攻撃が当たった地面は木の根がはがれ地面もえぐれている。
一発でも当たったら致命傷になりそうだ。
考えろ、こいつは誰だ、どんな特徴だ、なぜ現れたんだ。
まだ『天命の儀式』を終えていない俺とナナミにできることはあまりにも少ない。
少しでも考える時間を……
魔獣の特徴ならエルシーに習ったじゃないか。
落ち着け、思い出せ。
いかにも獰猛な魔獣を前に俺は必死で落ち着こうとする。
そんな俺の思考でも読んだかのように間髪入れずに魔獣は再び襲い掛かってくる。
必死に避けながらもこの魔獣についての記憶を探る。
「ナナ、この魔獣の名前!わかるか!?」
ナナミからの返事がない。
「ナナ!?」
ナナミのほうを見ると、ナナミは腰が抜けて転んだまま立ち上がれずに震えていた。
「くそっ!おいワンころ!こっちだ!お前ののろまな攻撃なんて当たるかよ!」
俺の叫び声が気に障ったのか魔獣は俺をターゲットに腕を振り攻撃してくる。
相当な速さで追ってくるが、この辺りは俺とナナミが毎日のように遊んでいる場所だ。
俺は地の利を生かして何とか攻撃をよけ続ける。
そうだ、こいつはキラーウルフだ。
攻撃は打撃や突進が主で魔法は使えないはず。
よけ続けていると不意にこいつについての情報を思い出す。
しかし、情報を思い出したところでこちらからの攻撃手段がなく逃げることしかできず、このままだとジリ貧だ。
そう思っている間にもキラーウルフは突進してくる。
「ナナ!立てるか!?立てるならお父さんたちを呼んできてくれないか?」
攻撃を避けながら大声でナナミに呼びかける。
何度も避けているうちに突進や腕攻撃の感覚がわかってきて、避けるだけならまだまだいけそうだったが、この二人ではキラーウルフを倒すすべがない。
「で、でもそれじゃ、リューが!」
「大丈夫!避けるだけなら何とかなりそうだから!」
「わ、わかった!行ってくるね!リュー、死んじゃだめだよ!」
ナナミは少し戸惑いがらも村に応援を呼びに行こうとする。
ナナミがこちらに背中を向けたその時だった。
今までは俺を執拗に狙っていたキラーウルフが急にナナミに向かって突進していく。
「ナナ!」
ナナミは俺の声に戸惑うように振り返る。
ここからじゃもう間に合わな、い……じゃないだろ馬鹿野郎!
何回諦めて後悔してきたんだ!俺は!
まだ間に合うんだ!
誓っただろうが!
ナナミはもう絶対に失わない!
俺は咄嗟にキラーウルフに向かってその辺に落ちていた石をいくつも投げる。
そのうちの一つがうまくキラーウルフの頭部に当たった。
「ぐるあああああ!」
相当痛かったのか、一つ呻き声をあげると、今までにないスピードで俺に向かってくる。
さっきのは狩りとして遊んでいたのか。
そう思ったときにはすでにキラーウルフは俺の目前に迫っていた。
ナナミを守れたのならよかった……
こっちで死んでしまったらどうなるんだろう……
ナナミは逃げれたんだろうか……
走馬灯のように思考が流れていく。
キラーウルフが俺にぶつかる瞬間俺の耳に聞こえてきたのは……
「ぐるうううあああああ!!」
「もう大丈夫よ流星!ここは任せて!」
キラーウルフのうめき声と七海の声だった。
本日は19時10分、21時10分、24時10分に一話ずつ、合計三話上げたいと思っています。
第一章も最終盤となりました。