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第三話 ひそかな疑問 




 「今日はこのあたりにしましょう。今日もお疲れ様」


 「じゃあ、遊んでくるねー」


 「はーい、いってらっしゃい。あまり森の深くはいかないようにね」


 「わかったー!」


 本日の勉強会を終え、俺とナナミは遊びに出かける。

 エルシーは畑へアレクの手伝いに行くようだ。



 月日は流れ、俺とナナミは三歳になっていた。


 

 俺が『天命の儀式』について知った日。

 エルシーがこのままじゃまずいと思ったのか、この一年間、ナナミまで巻き込んで三人での勉強会が毎日のように行われている。

 ナナミが参加することになった理由は、俺の勉強が始まるというのを聞きつけたガブリエルがエルシーに「ナナミにも教えてくれないかしら」と頼んできたからである。

 二歳を過ぎた程度の子供に勉強を教えるのはあまりにも早いと思うが、俺も()()()ナナミも文字を読めるようになっていたので、教え始めるには問題は無いだろうと勉強会は始まった。


 エルシーは昔、冒険者をしていたらしく、授業の内容は、国の成り立ちから地理、貴族制度や算術など多岐にわたった。

 ちなみに冒険者時代はエルシー、アレク、ガブリエル、クレイグの四人でパーティを組んでいたらしい。

 算術に関しては向こうの世界の知識があるので非常に簡単だったが、地理、貴族制度などは初めて触れるものなので難しく特に勉強になった。

 ナナミは特に戸惑うこともなくどんな問題もすらすらと答えていた。

 俺とナナミはエルシーの授業のおかげでかなり賢くなったんじゃないだろうか。


 「リュー!ナナミちゃん!これから遊びに行くのか!?気をつけてな!」


 村を歩いていると畑のほうからアレクの声が聞こえてくる。

 俺とナナミは両手を大きく振ってそれに応える。


 俺たちの住んでいる《リーン村》は《ヴァンダル王国》南西の辺境に位置する、人口数十人の緑豊かで農地が広がるのどかな村だ。

 お年寄りがほとんどで子供は俺とナナミ以外に一人もいない。


 「リュー、今日は何するの?」


 俺とナナミは森につく。

 走り回れるようになった俺とナナミにとって森は格好の遊び場所だ。

 

 「今日はかくれんぼでもする?」


 「かくれんぼ?何それー?」


 「隠れる人と探す人に分かれてね……」


 ナナミにかくれんぼの説明をする。

 俺たち以外に子供がいないせいで、できる遊びは限られている。

 俺は向こうの世界の子供の頃の記憶をひねり出しながらナナミと遊んでいた。

 

 

****************



 「リュー見っけ!」


 元気な七海の声が森に響く。

 

 「あー、見つかっちゃたかあ」


 「次はリューが探す番ね!」


 そう言ってナナミは隠れ場所を探しに行く。

 ルール説明をするとナナミは楽しそうだと元気に遊び始めた。

 初めのほうは探すのが下手だったが、コツをつかんできたのかだんだんと俺を見つけるのが早くなってきた。


 「……なーな、はーち、きゅーう、じゅう!」


 十数えて動き出すと、七海がすぐ近くの木陰に隠れているのを見つける。

 頭が少し見えている。

 ナナミは探すのは上手くなっても隠れるのは苦手なようで、どこに隠れても体の一部が少し見えてしまう。


 「ナナ見っけ!」


 「えー、リュー、見つけるの早いよう、何かずるしてるでしょ!」


 「そんなのしてないよ、ナナを見つけるのは簡単だから」


 ナナミは地団太を踏み悔しがる。

 二人なので、見つけるまでの時間が短いほうが勝ちというルールでしている。

 これで今日は俺の全勝だ。


 「そろそろ帰ろうか」

 

 「えー、まだ勝ってない!」


 「もう暗くなってきちゃうよ」


 あたりは既に少し薄暗くなってきている。

 昼過ぎから森に来ていたのでかれこれ4時間ぐらいはかくれんぼをしていたことになる。

 我ながらよく飽きないものだ。

 まだ少し悔し気なナナミの手を取り、オレンジ色に染まっていく空の下、森を歩く。


 「かくれんぼ、楽しいね」


 「そう?ならよかった、まだ負けないけどね」


 「次は絶対に勝つから!」


 ナナミはかくれんぼにはまったようだ。

 不意に向こうの世界の七海もかくれんぼが好きだったなあ、と思い出す。

 隠れるのが下手で、いつも七海が一番に見つかるものだから、俺が鬼の時はあえて見逃したりもしていた。

 

 「リュー」


 懐かしいなあと子供の頃を思い出していると突然ナナミが俺を呼び止める。

 いつの間にか家の近くまでたどり着いていた。

 

 「どうしたの?」


 「リュー!私リューのこと大好き!」

 

 「へっ!?」


 「じゃあね!また明日!ばいばーい」


 突然脈絡もなく、屈託のない笑顔でナナミは俺に「好きだ」と告げると、満足したのかフリーズしている俺を置いて自分の家に帰っていく。


 家に帰り、ご飯を食べ、寝る時間になっても俺の頭の中には「どういうことなんだ?」という謎が渦巻いていた。

 あまりにも俺の気が抜けていたのか、エルシーもアレクも「大丈夫なのか」と何度も聞いてきた。


 子供特有の無邪気な気持ちを素直に言っただけなのか?

 それとも何か含みがあるのか?


 四年間の片思いをこじらせていた俺には、素直に受け取るにはあまりにも難しい言葉だった。

 


ナナミはメダパニを使った。


リューセイは混乱してしまった。

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