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第二話 知識に溺れた勘違い




 この世界には何やら『天命の儀式』というのがあるらしいぞ。

 それを知り、大きな勘違いが発覚したのはこの世界に生まれてから二年が経ったある日のことだった。




 初めて本を読んでもらったあの日、俺はとてもワクワクした。

 もちろん最終目標は七海を助け、魔王を倒すこと。

 そこに一切の揺るぎはないが……


 魔法だ。


 向こうの世界でも魔法の出てくる物語はあった。

 だが、どれだけ願っても実際に魔法を使えることなんてなかった。

 神様にも、この世界は魔法を使える世界だということは聞いていた。

 その時にも心躍るものがあったが、人から魔法があると聞くのと、実際に魔法があるという事実を目の当たりにするのでは衝撃の度合いが全く違う。

 この世界の本には、本当に実践的な魔法について書かれているのである。

 これは実際にこの世界に魔法があるということを指し示していることになるのだ。

 さらに、神様から「錬金術師にしてあげる」と言われた俺はある文に目を奪われた。

 

 「魔法は錬金術師にも使える」


 そう俺は魔法を使える。


 それに気づいてからというもの、文字が読めない間は、エルシーに本を読んでくれとせがみ、文字を読めるようになってからは自分で家にある本を読み漁り、魔法について()()の情報を集めに集めた。

 結果、のどや口があまり発達していないのか、あまりすらすらと話すことはできないが、文字はすらすらと読めるという、なんとも成長度合いがアンバランスな0歳児ができてしまったのだが……


 そして情報を集めたのだから、今度は実践だ。

 そう思い、独学で何度も魔法の発動の練習をする。

 しかし幾度試せど魔法は発動しない。

 

 そう、魔法の書に書いてあることは「魔法は自身の体内に存在する魔力で自然に存在するエネルギーの形を変え発動するもの」だとか「魔法は五大魔法(火、水、雷、土、風)を基礎として、組み合わせることでさらなる魔法を作り出せる」だとか、魔法を始めて練習する人に何も優しくない作りだったのである。


 それでも俺は、いつか発動することができるんだと信じ、何度も何度も本を読みこみ、魔法の練習をした。


 しかし俺は一度も発動することもができないまま、一年半が経ち、二歳になったのだった。



 

 二歳になった俺は少し魔法への情熱がなくなっていた。

 これだけ失敗を重ねたのだ、自分に錬金術師の適性があったとしても、独学じゃどうにもならないほど魔法の適性が低いであろうことは簡単に想像がついた。

 最近は専ら魔法の本を読むよりナナミと遊ぶことのほうが多くなっていた。

 ナナミも俺もすらすらと話せるようになってきて、意思疎通がとれるので、遊ぶのが楽しいのだ。


 そんなある日の夜。


 「リュー、これ何かわかる?」

 

 「なにそれ、お母さん」


 エルシーが包み紙に入った大きめな四角いものを俺に渡す。

 開けてみるとそれは新しい魔法書だった。


 「リューってば少し前まであんなに魔法書好きだったじゃない。だけど最近見ているところをあんまり見ないから、家にあるのは飽きちゃったのかと思って、新しいのを行商人から買っていたのよ。」


 「そうなんだ……ありがとうお母さん。うれしいよ……」


 「どうしたの?あまりうれしくなかったかしら……」


 エルシーは少し残念そうに俺を見る。


 「違うんだ、本当にうれしいよ……でもねお母さん、僕には魔法の素質があまりないみたいなんだ。魔法、発動しないんだよ」


 「何言ってるの?リュー、あなたまだ魔法なんて使えるわけないじゃない」


 エルシーはこんなことで失望するような親じゃないことは知っているが、少しびくびくしながら俺に魔法の素質がないことをエルシーに告げると、思ってもみない返事が返ってくる。

 

 「ど、どういうこと?」

 

 「どうもこうも、まだリューは『天命の儀式』すらしていないじゃない」


 「『天命の儀式』?」


 「え、知らなかったの?五歳になった子供が神様から祝福を受ける儀式よ。『天命の儀式』を受けることで神様から『天職』や、魔法の素養のある者には体内魔力の使い方を授けてくれる儀式なんだけど……いろんな本に載っているはずなんだけどなあ……」


 「そ、そんなの知らない」


 そんな儀式があるなんて全く知らなかった。

 俺は錬金術師になると神様から聞いていたばっかりに、努力すれば使えるものだと思って、魔法の実践的な本しか読んでこなかった。

 魔法を使うにあたって、そんな始まりがあるなんて全くの盲点だった。


 「あんなに本を読んでいたのに、こんなに知識が偏っているなんて、リューってば、流石にこの村の名前は知っているわよねえ?」


 俺の愕然とした表情を見たエルシーはこんな質問をしてくる。


 「そんなの簡単だよ。えーっと、うーん、あれ?」


 全然出てこなかった。

 そりゃ当然だ、魔法の書だけを盲目的に見ていたのだから……


 「《リーン村》よ?リュー?今度一緒にお勉強しましょうねえ?」


 エルシーが不自然ににこやかな表情で俺を見る。

 謎の威圧感に俺は無言でこくこくと首を縦に振ることしかできなかった。

 

エルシーは凍てつく波動を放った!



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