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第一話 新たな決意




 ふと気が付くと、優しい声で「リューセイ」と呼びかけられ、思わず体に力が入る。

 目を開けようとしても全く開きそうにない。

 俺はいったい今どのような状態なんだろうか。

 突然大きな音とともに、男の人の声が響く。

 マリー婆さん?ガブリエル?クレイグ?

 全く知らない名前だ。

 俺はいったい……

 うまく頭が回らない。

 俺はそのまま深い眠りに落ちていった。



 

 うー、のどが渇いた!ここは砂漠か!?

 のどの渇きで意識が浮上する。

 苦しい!!!!!!!

 「おぎゃあ!おぎゃあ!」

 何故かものすごく近くで赤ちゃんの泣き声がする。

 

 「あらあら、おなかがすいたのかしら」

 

 女性の声がしたと思うと、俺は急に体を持ち上げられ何かを口に咥えさせられる。

 吸うとじわっとほんの少し甘い液体が口の中に入ってくる。

 なんだこれは!美味すぎる!

 まだ飲み足りない、もっともっとと吸い続ける。

 少しするとすぐに満腹になってしまった。

 すぐに眠気が襲ってくる。

 あれ、俺、なんで簡単に持ち上げられてるんだ?

 50キロはあったよな……

 結論は出ない。

 今度は抱えられたまま眠りにつく。




 次に目が覚めた時、俺の股は大洪水になっていた。

 な、なんてことだ、高校生にもなってお漏らしをしてしまうなんて……

 恥ずかしすぎる!!!!!!!

 「おぎゃあ!おぎゃあ!」

 またものすごく近くで赤ちゃんの泣き声がする。

 

 「こんどはおトイレかしら?」


 またさっきと同じ女性の声がする。

 そして俺のおむつが脱がされる……おむつ?

 ちょっと待て、なぜさっきから赤ちゃんの泣き声がすると、俺のところに女性が来るんだ?

 というかなぜおれはおむつを……

 その瞬間、俺は神様の力によって異世界に転生したことを思い出す。

 ということは、赤ちゃんの泣き声は俺の泣き声だったのか。

 うまく転生することには成功したみたいだ。

 ひとりでに納得していると、不意にさっきの場面を思い出す。

 ちょっと待てよ、のどが渇いたとき俺は何を咥えていた?

 何もおかしくない妄想が頭で繰り広げられ、顔が熱くなる。

 おれは、おれは!!!!!!!

 「おぎゃあ!おぎゃあ!」


 「あら、またおっぱいが欲しくなったのかしら」


 俺は決定的な単語を聞いてしまう。

 と同時にまた()()を咥えさせられる。

 そうだ、俺は今赤ちゃんなんだ、何もおかしなことはしていない。

 これはいたって普通のことなんだ。

 何とか思考を落ち着けようとするが、何か(おっぱい)を咥えている状態では思考は全く落ち着かない。

 ああ、おいしいなあ。

 俺は心の中でほろりと一筋の涙をこぼす。

 あの、くそ神様め!なんでこんな赤ちゃんの時から記憶が戻っているんだよ!!!!!!!

 「おんぎゃあ!おんぎゃあ!」

 俺の泣き声は今日一番の大きさで村に響き渡ったのだった。


 

*************



 そんなこんながあり、この世界に生まれてから3か月が経った。

 

 ついこの前、初めて七海を発見した。

 というか隣で一緒に寝ていた。

 髪の色と目の色は金色になっていたが、それ以外の部分は向こうの世界で見た小さいころの写真にそっくりだった。

 見つけたときは「七海が生きている!」と感情が爆発してしまい、大泣きをしてしまった。

 最近は泣き出すことがめっきり少なくなった俺が急に泣き出したので、両親も何故泣いているのかわからず、大いに困っていた。

 七海が生きていて本当に良かった。

 今度はきっと守ってみせると固く心に誓った。

 あやされながら泣きじゃくっている状態でだが……



 さらに3か月の月日が流れ、この世界に生まれて半年が経った。


 最近人の顔が何となく判別がつくようになってきた。

 何せ我が家には赤ちゃんがいるということで結構多くの人が顔を出す。

 両親のことを見分けられないとかわいそうなので、頑張っていたら結構違いがわかるようになってきたのだ。

 それで気づいたのだが、この世界の両親は顔の雰囲気から髪の色まで、向こうの世界の両親と全く違う。

 向こうの世界では、生粋の日本人だった俺の両親は二人とも日本人顔の黒髪黒目だったのに対し、この世界の俺のお母さんは栗髪碧目、お父さんに至っては金髪金目のうえとてもガタイがいい。

 というか、結構な頻度で家に顔を出す人たちも結構カラフルな髪色をしている。

 俺の髪も金髪なんだろうか、少し気になる。

 ただすごく不思議だ。

 

 不思議つながりで言うと、俺と七海の名前は向こうの世界から響きは変わらず、リューセイとナナミと名付けられた。

 だが、俺の両親はエルシーとアレク、七海の両親はガブリエルとクレイグという。

 何やら外国人みたいな名前になっている。

 神様は「対となる存在がいる」と言っていたが、髪の色や目の色、名前は関係ないのだろうか。

 だとすると、なんで俺と七海の名前だけそのままなんだろうか。

 周りが外国人名なせいで俺と七海の名前だけ少し浮いている。

 うーん、謎だ……

 


 

 考えてもわからないことはいったん置いておいて今日も家の探索だ!

 最近、寝て起きるだけの生活に飽きが来てしまった俺にとって、唯一の楽しみは家の探検だった。

 陽は少し傾きかけているが、まだまだ外は明るく、父は外へ出かけている。

 母は疲れがたまっているのか、椅子で眠っている。

 七海もまだベットの上で静かに寝ている。

 親が見守っているときに探検をすることはあったが、寝ている間に探検するのは初めてだ。

 それも相まってよりワクワクする。

 

 ということでつい最近覚えたハイハイを巧みに使って家の中を移動し、この前見つけた本が入っている棚までたどり着く。

 本は情報の宝庫だ。

 何かいい情報が載っているかもしれない。

 そう思うと、力を限界まで籠め、何とか一番下の段に入っていた本を引っこ抜くと、表紙を確認する。

 

 『%&¥$#&$』


 何も読めない……

 聞き取りが何の問題もなくできるがゆえに、まさか言語が違うとは思っていなかった。

 言語が違うとなれば、この世界ではまだ全く文字を勉強していない俺には読めるはずもなかった。

 ちょっと落ち込んだが、そんなこともあるだろうと、俺は気分を切り替え探検を続けることにした。

 

 「リュー!?どこにいるの!?」


 突然、エルシーの焦った声がする。

 同時に、どたばたと家の中を探しまわる音がする。

 

 「ああ、こんなところにいたのね、よかった」

 

 赤ちゃんの移動できる範囲だ、すぐに見つかってしまった。

 まあ、ダメなことをしているわけではないので、見つかったからと言って怒られるわけではないが、これだけ心配をかけてしまうと少し申し訳ない気持ちになってしまう。

 がこれはチャンスだ。


 「あら、本をもっているの?どうやって取り出したのかしら。」

 

 「あー、あー」


 俺は必死に「読んでくれ!」と頼み込む。


 「うーん、遊んでほしいのかしら、読んでほしいのかしら」

 

 「あー、あー!」


 エルシーが「読んでほしいのかしら」と言ったときにこれでもかと首を縦に振る。


 「わかったわ。読んでほしいのね。いいわよ。えー、何々『魔法、魔術の基礎基本』?難しい本だけどこれでいいの?」


 エルシーは少し首をかしげながら聞いてくる。

 魔術魔法だって?

 大当たりだ。

 それがいいと俺はまた必死に首を縦に振る。

 

 「ふふ、わかったわ。じゃあこちらにおいで」

 

 俺が首を必死に降る様子がおかしかったのか、少し笑いながら、本を持ちながら俺を抱っこし、先ほど座っていた椅子へ戻る。

 膝の上に俺を乗せると、本を開き読み始めた。


 「魔法、魔術というのは低級職であれば『魔法使い』『付与術師』『錬金術師』が、上級職であれば『賢者』『魔法剣士』『勇者』が使えることが現在判明している。低級職であれば魔法使いだけが、上級職ではいずれも攻撃魔法が使える。付与術師、錬金術師に攻撃魔法は使えない。って、リュー、こんな本聞いてて面白いの?」


 「あー!あー!」


 とても面白いし為になる。

 大きく首を振って続きを読んでくれと促す。

 わかったとエルシーはまた読み始める。

 しかし、少しするとあたりが暗くなりはじめ、「今日はここまで、もう大人しくしててね」と言い、エルシーは本を直し、夜ご飯を作りに行ってしまった。

 だが大変勉強になった。

 これまでに読んでもらった内容をまとめると、攻撃魔法は火、水、雷、土、風の五種類が存在し、研究によりどうやら自然の力を利用して発動するらしいぞ、というのが現在分かっていることなのだそうだ。

 錬金術師と付与術師は研究があまり進んでいないが、少し特殊で攻撃魔法が使えず、錬金術師は治療薬を作り出す魔法、付与術師は武器や防具に属性を付与する魔法が使えることが判明しているという。

 そして、重要な職であることには変わりないが、決して戦闘職ではないので、戦闘についていく際には決して前に出ないこと。

 とも書いてあった。

 

 神様によると、俺は錬金術師になれるらしい。

 戦闘職でないのは非常に残念だが、魔王を討伐する旅において治療薬は必須のものだろう。

 この本のおかげで、俺も七海の役に立てることが分かった。

 

 俺は錬金術師として成長し、七海を絶対に助けるんだと決意を新たにするのであった。



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