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第二話 夢か現か 交錯する現実




 「もう、ほんとにどんな夢見てたのよ。流星のせいでこっちまでいじられたじゃない」


 文句を言っているのは幼馴染の夕陽七海(ゆうひななみ)。17歳。

 一般的に見て美少女のくくりに入る容姿をしており、定期テストでは常に上位、剣道部では全国大会に出るレベルの実力というそんな奴現実にいるのかという完璧女子高生である。(幼馴染じゃなけりゃ絶対かかわることはなかっただろう)

 俺の前では結構きつい性格をしているにもかかわらず、クラスの中ではそこまで活発ではなく、清楚な美人というのがクラスメイトの中での評価である。


 「はいはい、もう何回も謝ったんだからそろそろ許してくれよ」


 そう返したのは俺、天川流星(あまかわりゅうせい)。17歳。

 どこにでもいる普通の容姿で、勉強は良くも悪くもなく、帰宅部のこれぞ普通という男子高校生である。 

 七海のことが好きなのに告白する勇気が出ず、幼馴染という立場に胡坐をかいているヘタレでもある。(うるせえ!)


 今は学校からの帰り道。夏休み前の期末テスト週間のため部活動は全面停止ということで、初暑のくせしてうだるような暑さの中、久しぶりに二人で帰っている。


 「アイス」


 「はあ?」

 

 「アイス奢ってくれたら許してあげないこともないけど」


 こいつ、何回も謝らせた上に奢らせに来やがった。まあこいつがへそを曲げると長くめんどくさいことを17年間の幼馴染生活で分かっている。

 アイスで機嫌をとれるなら安いほうだ。

 というか暑すぎてアイスの話題を振られると俺も食べたくなってしまう。


 「はあ、しゃあねえなあ」


 「やたっ!」


 両手で小さくガッツポーズまでしている。

 どんだけ食べたかったんだよ。

 さては奢らせるためだけに怒っている演技してやがったな。

 そんなことをうだうだと考えながら俺たち二人は夏の暑さに溶けかけながら、近くのコンビニへ急ぐ。


 コンビニにつくとすぐ冷気が体を覆ってあまりにも涼しい。

 外とはまるで別世界だと幸せを感じつつ二人でいそいそとアイスを選び会計へ。

 もちろん俺が払わされイートインの席へ。


 「それでほんとにどんな夢を見てたのよ」


 「どんな夢を見てたんだろうな。本当に一ミリも覚えてないんだよ」

 

 嬉しそうにアイスを食べながら七海が聞いてくる。

 本当は衝撃的過ぎたのか夢の初めから最後までしっかりと覚えているが内容を言ったら中二病の妄想やら私のことを好きすぎるなどと言われるに決まっている。

 さんざん学校でからかわれたんだ、七海にまでからからわれるのはごめんだと嘘をつく。


 「私の名前を叫ぶだなんて。私のこと好きすぎるんじゃない?」


 「はっ、誰がお前のことなんか好きになるんだよ」


 七海がにやにやしながらからかってくる。

 結局からかわれることになるのかよとうんざりな顔をうまく作りながら本当の気持ちが漏れないように適当に返事をする。

 ここまで片思い期間が長くなると思いを隠す表情の作り方というヘタレなスキルが高くなる。


 そう、俺たち二人は今まで全く付き合ってはいない。

 親同士が仲良く、家が隣同士で、生まれる前からの付き合い、さらには生まれる日まで同じという神様もびっくりな奇跡によって二人の母、二人の父に幼馴染というよりは双子のように育てられた環境上、幼いころはお互い本当の兄弟のように思っていたと思う。

 かくいう俺も意識し始めたのは中学二年生のころ、俺たちのあまりにも近すぎる距離感に周りが「夫婦じゃん!」と騒ぎだしてからである。

 そこから俺の長い長い片思いは始まる。

 この関係を壊すのが怖く、一歩を踏み出せないまま4年の月日が経ってしまったわけだ。


 「ねえ、聞いてる?何考え込んでるのよ」


 「え?何か言ったか?」


 「もう、なんでもないわよ」


 七海が複雑な表情でほんとに間が悪いったらありゃしないとかなんだかもごもご言っている。

 そうこうしているうちに二人ともアイスを食べ終わり、汗も引いたしそろそろ帰ろうかとコンビニを出る。


 何気ない話をしながら帰っていると、この公園を曲がれば家に着くというところまで帰ってきた。

 

 「ちょっと……」


 「どうしたんだよ」


 「いや、あ、あのね?」


 隣で歩いていた七海が突然立ち止まり何か煮え切らない様子で呼び止める。

 後ろを振り返ると、七海の顔は真っ赤だった。


 「お前、顔真っ赤だぞ。だいじょうぶか?この暑さとはいえあかすぎるだろ」


 「そ、そうかな?すごい暑くって、あはは」


 「ほんとにどうしたんだよ」


 七海が今までこんなに煮え切らない様子の時はなかった。あまりにも怪しい態度に、俺はこれはついに告白されるのかと淡い期待を抱いてしまう。

 

 「あのねっ!……」


 そこから続きの言葉が出てくることはなかった。

 七海の眼は見開かれ、俺の後ろを見ていた。

 言葉を発する前に、七海が走り出す。

 何が起こっているんだと振り返る。

 そこで目にしたのはあり得ない現実だった。

 公園から飛び出した幼稚園生ぐらいの子供、住宅街にしてはあまりにも速度を出しすぎているトラック、そこに駆けていく七海の姿……

 俺の眼にはすべてがあまりにもスローモーションに映っていた。

 子供の親は何をしているんだ。トラックの運転手は何故こんなところでこれだけのスピードを出しているんだ。おいおい七海、正義感ありすぎだろ。そんなところも好きだなあ。

 何もかもスローモーションな世界の中、俺の頭だけは凄まじいスピードで様々な思考が走馬灯のように流れていく。

 だが、体は一向に動かない。


「七海いいいいいいいいっ!!!!!」


 七海と子供、トラックが交錯する。

 その瞬間俺にできたことは、七海のほうへ手を伸ばし名前を叫ぶことだけだった。


二話で序章を書き終えるつもりだったのが、肉付けが多くなってしまい、三話目に突入してしまいます。もう少々おつきあいください。

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