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096 あの時のラクガキ帳

 デュラハンを倒した後、部屋から続いていた通路を歩いて別の部屋に到達した透夜たち。


 水場こそなかったものの、比較的安全そうな場所だったため、今日はここで休息を取ることにした。


 手持ちの食料を調理して食べた夕食後、各々が好きに時間を過ごしている。そんな中、絵理が透夜のそばにやって来た。


「透夜くん、魔法の本を見てるの?」


 装飾がほどこされた本を見ている透夜だったが、なぜかその顔は真剣さとは程遠かったのだ。疑問に思った絵理が透夜に尋ねた。


「いや、違うよ。これはあの時金貨を使って手に入れた本」


「ああ……あの……」


 透夜が見ていたのは、かつてアイテムがずらりと並んだ部屋で金貨を投入して手に入れた、子どものラクガキ帳としか思えない本だった。むしろ透夜がそれを持ち歩いていたことに今さらながら驚いた絵理。


 そして結局あれから金貨は一枚も手に入っていなかった。諦めざるを得なかった杖のことを思い出し、絵理は少々暗い表情になる。


「それは……」


 背後から呆然としたような声が聞こえ、透夜は後ろを振り向いた。絵理もそちらへ視線を向ける。


 マリアが、何かに心を奪われたかのように透夜が手繰るページを覗き込んでいた。


「どうしたんです? マリアさん?」


「……すまないが、見せてもらってもかまわないか?」


「ええ、どうぞ」


 透夜からその本を受け取ったマリアは、一枚一枚、丁寧にページをめくっていく。


 やがて、感極まったかのように、その本を閉じると自分の胸に抱きしめた。


「ど、どうしたのマリア?」


 それを見ていたソーニャが訝しげな声を上げた。杏花はもちろん、透夜と絵理も同じくマリアの反応に戸惑っている。


「お前たち……この本をどこで手に入れたのだ?」


 マリアの質問に、自分らが体験したことを語る透夜。


「そうか……ふふっ」


 それを聞いたマリアが笑みを浮かべた。


「これはな……あいつが……マキナが描いた絵だ。子どもの頃にな」


 さすがに驚く透夜たち。マリアはふたたび本を開き、ページを手繰る。


「私が一緒になって描いた絵もところどころに混ざっているようだ……懐かしいな……」


「そ、そうだったんですか……」


「……この本は私がもらってもかまわないか?」


「ええ、構いません……マリアさんが持つべきものだと思います」


 透夜の言葉に、絵理たち三人もそれぞれ同意した。


 かつて仲良しであったろう姉妹が、今はこうして一人は人形となって動かされ、もう一人は地下迷宮の支配者(ダンジョンマスター)として最下層で待ち受けている。あまりにも悲しすぎる運命だ。透夜たちの目には涙が浮かんでいた。


「ありがとう……」


 マリアは透夜たちに頭を下げて礼を述べると、自分が携帯しているポーチへとその本をしまった。


 あの時ははずれアイテムを手に入れたと誰もが思っていたのだが、マリアの表情を見て今では四人ともが、むしろこの本を選択したことを喜ぶべきことだと感じていた。本来持つべき人のもとへ届けられてよかったと。


 なお、絵理はあの時怒りに任せて本を叩きつけなくてよかったと、こっそり胸をなでおろしていた。


    ◇◆◇◆◇


 翌朝。


 透夜たちは新たに探索を開始する。


 いくつかの部屋を経由し、そこで出会った敵も蹴散らして、やがてさらに下へとおりる階段を発見した。


 五人はその階段に足を踏み入れ、地下十階を後にしたのであった。

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