094 やっぱり土だからなのかな……
行き止まりだった場所から広間へと戻り、また別の道を歩き始めた透夜たち。
今度は行き当たりに扉を発見した。透夜は横のボタンを押して扉を開け、足を踏み入れる。全員が透夜に続いた。
しかし、その足が部屋に少し入ったところで止まる。部屋中央の床が大量の土くれの塊で埋まっていたからだ。
かつて、クレイゴーレムを倒した際にその体が土へと変化して床に散らばったが、それと同じような光景である。
「明らかに怪しいよね……」
絵理のつぶやきに全員がうなずく。
「土の精霊なんじゃないかな?」
透夜がそう答えた。
これまでに透夜たちは水、火、風といった精霊らしき存在を撃破してきていた。となると、土の精霊のような敵がいても不思議ではない。
「魔法の援護をお願いできる? ペンダントもあるし僕がまず突っ込む」
「私もお供するわよ」
透夜たちがそんなことをコソコソと話していると、待ちきれないとばかりに床に散らばっている土くれが動き始めた。集まり、一つの大きな形になろうとしている。
「マジックウェポン!」
「土魔法への守護を!」
それとほぼ同時に、支援の魔法がかけられた。
絵理、杏花がマジックウェポンを使い、透夜とソーニャの武器が魔法の光を帯びる。そしてマリアが土に対するプロテクト系の魔法を透夜中心にかける。
透夜は盾を構えて駆けだす。そのすぐ後ろにはソーニャが続いた。透夜にかけられている土魔法への守護結界は、後ろのソーニャも楽に覆える大きさだ。
部屋中央に散らばっていた土は今、完全に一か所にあつまった。みてくれは、自然素材のクレイゴーレムといった感じである。とはいえあれほど人型に近くもない。
それが透夜に向けて土のつぶてをいくつも撃ちだした。透夜は盾をかざす。
マリアがはった結界に守られている透夜であるが、さらに迫る土魔法に反応してか、首からさげているペンダントの宝石部分が輝きだす。
二重の防壁によってつぶての勢いは大きく弱められ、透夜の盾、そして鎧へと命中するものの致命傷には程遠い。
透夜は飛来するそれらに耐えながら距離をつめ、通り抜けざまに光輝く片刃刀を土の精霊らしき魔物へと振るう。
一閃が土の精霊らしきものを切り裂く。いくつもの土がその体から剥離した。だが、さすがにそれくらいではまだ消滅しない。
「はああああああああっ!!」
そこに、透夜の背後に隠れて接近していたソーニャが大きく剣を振りかぶる。
マジックウェポンによって強化されている黒い刃が力強く叩きつけられた。
まさに一刀両断という斬撃が土の精霊の真芯をとらえ、土の塊は綺麗に分断される。
その一撃は土の精霊の耐久力を大きく上回っていたのか、もはやその形は元にもどることもなく崩れおちた。やがて、初めから存在しなかったかのように土の塊は消えてなくなる。
透夜たちあっさりと、土の精霊戦に勝利したのである。
さすがに拍子抜けしたのか、透夜たちは顔を見合わせる。
絵理、杏花、マリアは次にどの魔法を使おうかと考えていたところだった。まさか、こうも簡単に倒せてしまうとは。
「……油断しているところを背後から襲おうとかいう魂胆だったりして?」
透夜がそう口にし、他四人もその可能性を考えてしばらく様子を見た。しかし、やはり土の精霊が動きだすことは二度となかった。
「やっぱり土だからなのかな……」
どことなく悲しそうな絵理の呟きを聞き、土のペンダントをさげている透夜はわずかに土の精霊へと同情の念を抱いた。
勝利した五人は改めて室内を捜索する。
別の扉はなかったが、壁に小さなボタンがあった。これまでのパターンからすると、アイテムが隠されている可能性が高い。
透夜がそのボタンを押すと、近くの一画が振動してくぼみが現れた。
中にはやはりアイテムがのっている。
透夜は小さいサイズのそれをそっと手にとった。
綺麗な宝石がいくつか散りばめられている。アクセサリーのようだ。
「髪飾り……かな?」
自信なさげに言う透夜だったが、他の少女たちも同じ見立てである。
魔法的な効果があるかはわからないが、デザイン的にも美しい。
数はひとつ。
絵理、杏花、ソーニャがそれぞれ目でアピールする。欲しい、と。
「お前たち三人で決めてかまわないぞ」
空気を読んだのか、マリアが所有権を辞退した。
となると、やはりあれで決めるしかない。そう、ジャンケンだ。
「最初はグー! ジャンケンポン!」
いつものように、最初はグーから戦いがはじまった。
そんな少女たちをマリアは不思議なものを見るような目で見ている。となりで一緒に眺めている透夜のほうを振り向いた。
「あれは何だ? トウヤ」
「あれはジャンケンといって、僕たちの国でよく使われる、簡単に勝敗を決めるための遊びみたいなものです」
「ほう……興味ぶかいな。詳しく教えてほしい」
「ええ、いいですよ。これがパーで……」
透夜がマリアにジャンケンの説明をしている間、あいこが何度も続いていた三人の少女たちだったが、やがて勝者が決まった。
絵理である。
「やったああああ!」
なんだか久しぶりに良い目を見れたような気がして、絵理は全身で喜びを表現する。
「くっ……仕方ないわね……」
「今回はいさぎよく諦めるとしましょう……」
「えへへ、ごめんね! じゃあさっそくつけさせてもらうね!」
絵理はいそいそと手にした髪飾りを自分へとつける。
杏花、ソーニャに位置のずれを修正してもらいながら身に着けたそれは、絵理の黒髪で静かにきらめきを放つ。
また、それと同時に絵理は自分の体内にわずかな活力があふれだすのを感じた。やはり、何かしら効果のあるマジックアイテムなのだろう。少なくともつけておいて損はなさそうだ。
「うん、似合ってるよ、絵理ちゃん」
髪飾りをつけた絵理を透夜が褒めそやし、杏花たちも同意した。
魔法的な効果があるのは嬉しい誤算だったが、こうして素敵なアクセサリーをつけ、それを仲間に、特に透夜に褒めてもらえたことがなにより嬉しい。
「ありがとう!」
絵理はにっこりと笑って透夜たちに応えた。