090 四人の提案
マリアが絵理をかばったあの戦い以降、四人はマリアから離れたところでささやくように会話をすることが多くなった。マリアとしてはこれまでに何度も見てきた光景である。
マリアがいる階層にやってきて、彼女の言葉に導かれるように『聖』の文字が書かれた書物を手にし、あの肉体を持たない魔物を倒した者たちは、これまで透夜たち以外にもいた。
しかし、そのあとに決まってマキナが現れ、マリアの素性をほのめかすようなことを言って去っていく。
そのたびにマリアは同行している仲間に事情を話す。マキナが仕組んでいるのか、その時からこのダンジョンや自分の身の上のことを話せるようになるのだ。
しかし、それを聞かせた者たちはもうマリアのことを仲間だとは認識しなくなっていた。それでも、マリアは彼らと共に行動を続けるのだったが……。
今、透夜たちは探索中に見つけた安全そうな部屋にいる。すでに夕食もすませており、そろそろ寝る時間だ。
睡眠を必要としないマリアにとっては、ただ目を閉じて何もしゃべらず、じっとしておくだけの時間でしかない。
そんな時、マリアの側に複数の気配が近づいた。
「その……マリア」
「うん? どうした? ソーニャ」
瓦礫の上に腰掛けていたマリアは顔をあげ、呼びかけたソーニャに返事をしたが、マリアの方を見ているのは四人全員だった。少々気後れするマリア。
「……いっしょに寝ない?」
「……え?」
いきなりの発言にマリアは戸惑い、発言主のソーニャと他三人の顔を見返した。とはいえ、全員がはっきりとしない表情をしている。四人はお互いに顔を見合わせるようにしていたが、意を決したのか一人一人が喋りはじめた。
「私たちもいろいろと考えたんですけど……もう少しマリアさんのことを知りたくて……」
「ええ、もちろん思うところはまだあるけど、このままの状態で過ごすのも嫌だもの」
「だから、みんなで頭を寄せ合う形で横になって、眠くなるまでおしゃべりしようってことになったんです。ね、透夜くん!」
「うん……」
さすがに透夜は四人の女性と近くで寝るのが気恥ずかしいのか、少々歯切れが悪い返事をする。
マリアはしばし呆然と透夜たちを見返した。今まで何度も他の誰かと行動を共にしてきたが、自分の正体を話したあとにこんな接し方をしてくれた人間は初めてだった。
まだ自分のことを仲間だと考え、理解しようと努めてくれている。マリアの中に温かいものがあふれていく。
「……そうか……その……なんと言えばいいのか……ありがとう……」
マリアがたどたどしく言葉を紡ぎながら、顔をくしゃくしゃにする。
もし彼女が生きていたら、その瞳から涙をあふれさせていたかもしれない。
そんなマリアに、透夜たち四人はお互いに笑顔を見せあう。一緒に寝る事を提案してよかったと。
上から見ると、ちょうど桜の花びらのような形で頭を寄せ合い、横になる透夜たち。
マリアはすでに滅んでしまった国で第一王女として過ごしていた頃のことを語った。平穏に過ごし、生け贄に捧げられる前のマキナのことも含め、楽しかった日々のことを。
透夜たちも、自分たちがいた日本のこと、学校での生活などを話して聞かせる。
自分から見て異世界となるその話を、とても興味深げに聞いていたマリア。
やがて透夜たち四人が睡魔に意識をゆだね始めた時、マリアは小さいが力強い声でささやいた。
「必ず、お前たちを元の世界に帰してみせる」