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089 足並みがそろわない透夜たち

 やがて眠りから覚めた透夜たち。しかし、やはり心にはしっくりしないものを抱えていた。とはいえ立ち止まっているわけにもいかない。


 透夜たちはゴーストを倒したことによって開いた扉の向こうへと足を踏み入れた。もちろんマリアもついてくる。四人とは少し離れた位置で。


 しばらく進んだ先の一室で、かつて透夜とソーニャが落とし穴に落ちた時に遭遇した、全身トゲトゲの生物が待ち受けていた。数もかなり多い。たちまち部屋の中で戦いが開始された。


 話には聞いていたものの、絵理と杏花がまだ戦ったことのなかった相手であることにくわえ、今の透夜たちは精彩を欠いている。


 一瞬の隙をついてトゲトゲの魔物が、絵理に向かって突進した。透夜、ソーニャ、杏花もカバーが間に合わない。


「……!」


 絵理の前に割って入ったのはマリアだった。魔物が振るったトゲだらけの腕がその体を切り裂く。


「マ、マリアさん!?」


 背後から聞こえる絵理の叫びに振り返ることなく、マリアは左右の剣を目の前の敵に見舞った。


 剣閃が魔物を切り刻み、瞬く間にトゲトゲの生物はその場に崩れ落ちる。


 それとほぼ同時に、透夜たちも自分が受け持っていた敵をなんとか撃破した。絵理は慌てて自分をかばってくれたマリアの正面に立つ。


「ご、ごめんなさいマリアさん! あたしのせいで……あっ!?」


 マリアを正面から見た絵理は、謝罪を述べている時に目にした光景に驚きの声をあげた。


 魔物のトゲによる攻撃がマリアの鎧に覆われていない箇所を切り裂いている。


 が、しかし。


 その傷痕からは血が一滴も流れていなかった。抉れた痕も腫れあがったりせず、まるで人形のように無機質だ。


 絵理と同じものを目にした透夜、杏花、ソーニャも何も言えずにただその傷痕を見つめていた。


 かつてマリアは自分のことを人形のようなものだと言っていた。


 頭では理解していたものの、改めてそれが事実であるという光景を見せつけられ、透夜たちの中に様々な感情が湧きおこる。


 マリアは全員の視線が集中しているその傷痕を手で覆うと、恥ずかしそうに顔を伏せた。


「……これくらいの傷ならすぐに治る……だから気にするな」


「は、はい……えっと……その……」


 絵理はしどろもどろになったが、結局意味のある言葉を発することはできなかった。もちろんそれは透夜たちも同じである。


 マリアはうつむいたまま透夜たちから少し離れてしまい、透夜たちもどうすればいいのか分からず、その場に立ち尽くすのみだった。


 それでも引き続き探索を行なう透夜たち。


 気を引き締めなおし、それ以降は特に危険を覚えるような戦いは起こらなかった。


 しかし結局、いくつかの戦いを共に乗り越えても、その開いた距離を縮めることは誰にも出来なかった……。

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