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083 マリアと共に過ごすゆうべ

 騎士の集団を蹴散らした透夜たちだったが、その部屋には何もなく、行き止まりであった。


 仕方ないのでふたたび最初の場所へと戻ってくる透夜たち。別の通路へと入ることにする。


 道中何度か敵と遭遇したが、大した相手ではなくあっさりと撃破できた。やがて突き当りにあった扉へと入る。


 その部屋もやはり他に通路がない行き止まりだったが、一画には水場があった。


 さすがに疲れも蓄積しており、今日はここで休息をとろうと透夜が発案する。絵理たちはもちろん、マリアも反対しなかった。


 杏花がファイアーフロアで火を起こし、透夜がモンスターの肉を取り出そうとしたところで絵理がはたと気付いた。もちろんマリアのことである。


 はたして、この世界においてモンスターの肉を食べるという行為はどう思われているのか、絵理は少し気後れを覚えながらもマリアへ声をかける。


「あっ、あのっ……マリアさん!」


「うん? どうした? エリ」


「その……食事のことなんですけど……」


「ああ……お前たちは何を食べるつもりなんだ?」


 透夜たちは顔を見合わせる。しかし、隠すのも難しい。絵理は正直に話すことにした。


「えっと、あたしたち、実はこのダンジョンにいるモンスターの肉を食べているんですが……」


「ふむ。だろうな」


 絵理の言葉にまったく驚く様子がないマリア。モンスターの肉を食すことは、この世界において忌避されるような行為ではないということなのだろうか?


「じゃあ、マリアさんも食べますか? それなら五人分焼きますけど」


 透夜がまだ残っているモンスターの肉の量を確認しながら質問する。マリアは視線をわずかに逸らした。


「……いや、その必要はない。私は自前の食料を用意している。さすがにお前たちに迷惑をかけるわけにもいかないからな」


「それくらいなら迷惑ってことはないですけど……」


 透夜が絵理たちを見まわしながら言った。三人の少女もそれぞれ同意の首肯を返す。


「食料の確保は大事なことだろう? だから私のことは気にするな。お前たちのぶんだけを用意すればいい」


「……分かりました。ではそうしますね」


 たしかにマリアの言うことは頷ける。実際、最近は新たな食糧を入手できておらず、地下七階の食糧庫で得たワーム肉以外の肉はもう尽きかけているところだ。それにマリア本人がまったくといっていいほど欲しいそぶりを見せないし、ちゃんと自分の食料は確保しているのだろう。


 透夜は言われた通り、四人分だけ準備することにした。


 ――高貴そうな人だし、ひょっとするとモンスターの肉を食べたりはしないのかも?


 そう考えた絵理も、無理にすすめるようなことはしないでおいた。


    ◇◆◇◆◇


「ごちそうさまでした」


 食事を終える透夜たち。


 それぞれ肉を焼くのに使った鉄串を掃除したり、水を飲んだりしている。


 マリアもすでに食事を済ませたのか、今は床に腰を降ろしたまま何もせず魔法で生まれた火のゆらめきを眺めている。ただ座っているだけという所作にも、やはり庶民離れしたものを感じさせた。


「そういえば、マリアさんは寝具を持っているのですか?」


 杏花が尋ねた。


 マリアは一応ポーチのようなものは身に着けているものの、それは透夜たちが持っている袋のような大きなサイズではない。少なくとも毛布などが入っているとは思えなかった。


 その質問に一瞬マリアは困ったような表情を浮かべる。


「……実は、この服には魔法がかけられていてな。暑さを感じることもなければ寒さを感じることもない。だから寝具は不要なのだ」


「そ、それはすごいですね!」


 そんな魔法の力があるとは予想もしていなかった絵理は驚嘆する。ソーニャはそれでも納得がいかないのか、さらにマリアへと言葉をかけた。


「でも……床に直で寝るのはつらくない? 私と一緒の毛布で寝る?」


 しかしそんなソーニャにもマリアは首を横に振る。


「ありがとう。だが、気遣いは無用だ……それに実は私は寝相がとても悪いのだ。お前の体を蹴とばしてしまうかもしれない」


「そ、そうなの? なんだかイメージと違うけど……」


 首を傾げるソーニャに、マリアは真面目な顔で言葉を続ける。


「そうなのだ。だから私のことは気にしないでいい」


「うーん……分かったわ。でもやっぱり毛布で寝たい時は言いなさいよ?」


「ええ、何でしたら私の毛布でも構いませんし」


「あたしもです!」


 ソーニャだけでなく、杏花も絵理もマリアにそう提案する。


 さすがに透夜は、自分の毛布でも良いとは言えなかった。相手は女性であるし。


 マリアはそんな少女たちを見てとても嬉しそうに微笑んだ。


「……ありがとう。その気持ちだけでじゅうぶんだ」

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