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074 まさかの自動販売機?

 広間から伸びていた通路の一本に足を踏み入れた透夜たち。やがて行き当たりに扉を見つけるとその中へと入る。そして四人は驚いた。


 室内がこれまでの他の部屋と比べて明らかに異質だったからである。


 まず床の上に大きな台座が六つ配置されている。横二列でそれぞれ等間隔に三つずつ並んでいるのだ。そしてその上に様々なアイテムがのせられている。ここまではまあ良い。


 問題はそれら台座上にあるアイテムの周囲を微弱な光が覆っているという事と、そばにかつて見た金貨の投入口がそれぞれ設置されているという事だ。


 そして壁の一画の石板にはこう書かれている。


【お代は金貨一枚】


 どう見ても、自動販売機か何かにしか見えない。


「金貨を入れたらたぶんこのバリアみたいなのが消えて、アイテムが取れるってことだよね……」


 透夜はそう喋りながらあらためて各台座の上のアイテムを眺めた。


 台座の上にのせられているのは、胸当て、ベルト、ガラスビン、綺麗な装飾の本、投げナイフ3本、小ぶりな杖だった。


 問題は、アイテムは六種類あるけれど金貨は残り三枚しかないということだ。つまり、半分は諦めないといけない。


 透夜は試しにバリアらしきものに小さい石ころを投げてみたが、すさまじい音を立てて弾けた。やはり、触れるだけで危険そうなシロモノである。裏技は通用しなさそうだ。


「とりあえず、分かる範囲でアイテムを調べてみましょう」


 ソーニャの言葉に全員が同意した。陳列されているアイテム一つ一つを触れることなく入念にチェックする四人。


 まずは胸当てから。金属製で見た目から判断するに、杏花が着けている籠手と同じシリーズのものなのではないかと思われる。装備することで杏花の防御力は格段にアップするだろう。


 続いてベルト。これはどうやらガラスビンを6本携帯できるタイプのもののようだ。つまり透夜と杏花が身に着けているのと同じものである。


 次は言わずと知れたガラスビン。新鮮味はないものの、有用なアイテムであることは誰もが知っている。


 そして次は本。表紙や装飾のされ方からいって、おそらく魔法の本だ。まだ知らない文字や魔法について書かれているなら、かなり貴重なアイテムなのは間違いない。


 続いて投げナイフ3本。絵理が持っているものと同じタイプである。


 そして最後が小ぶりな杖。絵理はマジックシールドの魔法が込められた杖を持っているが、この杖が同じような魔法の杖であるかは分からない。残念ながら、見える範囲に魔法の文字は見当たらなかった。


「ちょ、ちょっと悩むね……」


 一通り調べ終わった絵理が困惑しきった様子で呟く。他の三人も似たような表情だ。


 四人は頭を寄せ合って相談する。


 まず投げナイフは全員一致で取らなくていいだろうという結論になった。ナイフをよく投擲する透夜も絵理も、自分の投げナイフを一度に使い切って困ったことはほとんどなかったからだ。


 そして全員から最優先で取るべきだという意見が出たのは、胸当てと魔法の本だった。


 胸当ては着けることになる杏花の防御力アップにつながるし、魔法の本も知らない文字が書かれている可能性を考えると無視できない。もちろん、すでに知っている文字しか載っていないという可能性もあるが。


 となると、手に入れられるのはあと一品。


 ベルトか、ガラスビンか、杖か。


 ベルトが欲しいと強く主張したのは絵理とソーニャ。二人とも、現在のベルトはビンを4つまでしか装着できないからだ。むろん、新しいベルトが透夜とお揃いのものであるということも欲しくなった理由のひとつだが。


 ガラスビンは便利だが、さすがに他のアイテムに比べると少し欲しいという気持ちが劣る。ここは見送ろうということになった。


 そして最後の小ぶりな杖。これを一番欲しがったのはもちろん絵理だ。


 しかし、絵理はベルトも欲しいと考えているのである。さすがにこれも欲しいとは言いづらい。


 絵理は迷ったあげく、ベルトに一票投じたのであった。


 こうして金貨の投入先は決まった。


 胸当て、ベルト、本だ。


 まずは胸当てが置かれている台座のコイン投入口らしきところに金貨を入れる。


 ほどなくして、台座上を覆っていた光が消えた。透夜がおそるおそる手を伸ばし、バリアが消えていることを確認すると、そのまま胸当てを台座から持ち上げる。


「はい、杏花さん」


「ありがとうございます……これでもっと近接戦もこなせるようになります」


 杏花は笑みを浮かべてさっそく新しい防具を身にまとう。


 胸当ては制服の上から問題なく着けることができた。重量も大したことなく、籠手とおそろいのデザインでなかなか見栄えもよい。


 続いてベルトの台座に金貨を投入し、同じようにバリアが消えた台座からビンを6本携帯できるベルトを手に入れる透夜たち。


 問題は絵理とソーニャ、どちらがつけるかだ。


「ソーニャ先輩……ジャンケンで決めましょう!」


「ええ、望むところだわ……」


 まるで戦闘前のような緊迫感がふたりを包む。透夜と杏花も息を飲んで見守った。


 しかし絵理には自信がある。なにしろ、以前似たような状況で杏花とジャンケンをし、見事に勝利したのだ。今回もいけるはず!


「最初はグー! ジャンケンポン!」


 その時と同じく、最初はグーから始まった勝負。結果は……。






 絵理の負けだった。


「悪いわね! 絵理!」


 口では悪いわねと言っているソーニャだったが、透夜とおそろいのベルトをいそいそと身に着けるその表情は、眩しいほどの喜びにあふれていた。絵理はうなだれ、そんな先輩を見上げる気力もない。


 ――あたし……肝心な時に駄目すぎぃ……。


 杏花が落ち込む友人の肩をぽんと叩いた。


 そして最後、本がある台座だ。残り一枚となった金貨を投入する透夜。これも同じく光が消え、安全にアイテムを入手できるようになる。


「絵理ちゃん、はい」


 先ほどのベルト争奪戦に負けた絵理を元気づけようというのか、手に取った本を絵理に渡す透夜。


「……ありがとう透夜くん……」


 力なく本を受け取った絵理だったが、さすがにいつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。気分を切り替えて本をぱらぱらとめくった。見たこともない文字や知らない魔法について書かれていることを願って。


 本の中身は……。






 ただのラクガキ帳だった。


「ああああああああああああああああ!!!」


「ちょっ……絵理ちゃん落ち着いて!」


 奇声をあげてその本を叩きつけようとした絵理を、慌てて透夜がとどめた。


 絵理は息を荒げている。先ほどのベルト争奪戦に破れたあげくの追い討ち。理性を保てというのが無理な話だ。


 落ち着くのを待って、透夜がその手から本を慎重に取り上げた。自分もパラパラとめくってみる。


「これは……ハズレアイテムってことなんだろうね……」


 これまで手に入れてきた魔法の本と同じように美しい装飾がほどこされた重厚な本。中身だけが子どもが書いたような絵で全ページ埋め尽くされていたのである。


 ここまで念入りにされると、さすがにひっかかるしかないと透夜は苦笑した。


「ああ……杖を選べば良かった……」


 心底後悔しているという顔で呟く絵理。


 もちろんみなが絵理と同じ気持ちだったが、もう金貨は残っていないのだ。いさぎよく諦めるしかない。


 杏花がなんとか絵理を力づけようと声をかける。


「ひょっとすると他の場所でも金貨が手に入るかもしれませんし、そしたらまたここに来ましょう?」


「うん……その時は杖でお願いするね……」


 全員、その際は杖を優先することを絵理に約束したのであった。

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