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073 黒い刃を持つ剣

 火の精霊らしき敵を撃破した四人は、改めて壁のボタンへと近づいた。


 このボタンに近寄らせないためにあの魔物が存在していたとしたら、何か凄い宝が隠れているのではないだろうか。以前戦った水の精霊も、部屋の中に魔法の本を隠し持っていたわけであるし。四人の期待が高まる。


 透夜がボタンを押すと、壁の一画が音を立てて振動した。足元から開き始めている。


 敵が潜んでいるのかと改めて警戒した透夜たちだったが、幸い中に敵はいなかった。その代わり、一本の剣が安置されていた。


 それは黒い剣身を持った両刃の剣。まるで暗黒をその刃に凝縮したかのようであった。


 現在ソーニャが使っているものと同じような、両手で持つことを前提とされた長い刃渡りと柄を備えている。


「の、呪いのアイテムとかじゃないよね……?」


 その剣を見た絵理が至極もっともな意見を述べた。


 ただ、見た目とは違い、特に禍々しい印象はない。


 それに呪いのアイテムなら、先ほどの火の精霊のような番人は配置しないはずである。


 ソーニャもそう思ったのか、絵理の言葉を意にも介していないかのように、一人近づいてその持ち手へと腕を伸ばす。


「せ、先輩!?」


 まったく躊躇していないらしい様子に、さすがに慌てる声を出した透夜だったが、ソーニャは剣を取るとそのまま透夜たちのところに戻ってきた。


 両手で柄を持ち、剣をかかげるソーニャ。


「……うん、これはとっても良さそうな剣ね」


 どうやらずいぶんとこの剣が気に入ったようだ。満足げな笑みを浮かべている。


「今まで以上に暴れ回ることができそう……ふふっ」


「だ、大丈夫なんですよね……?」


 杏花もやや心配そうな顔つきで笑顔の先輩に尋ねた。しかし当のソーニャはけろりとしている。


「ええ、もちろん。別に変な気持ちが湧きおこったりはしてないわ」


 確かに外から見ていてもその剣から黒いオーラが放たれているとかそんなことはないし、ソーニャの青い瞳も虚ろになっているなどということもない。彼女のいう通り、問題はないのであろう。


 実際、改めて見てみると黒い剣身も含めて明らかに強そうな見た目の武器だった。


 仮にソーニャが手を伸ばさなかった場合、透夜がこの剣を使うと言い出したかもしれない。それくらい人の心を惹きつける何かがこの剣にはある。


 とはいえこの中で一番両手剣の扱いに慣れているのはソーニャであるし、透夜としても彼女がこの剣を使うことに異論はない。


 ソーニャは今まで使っていた剣を代わりにここへ安置し、暗黒の刃を持つ剣をその背に負った。


    ◇◆◇◆◇


「はあっ!!」


 ソーニャが気を吐いて黒い剣を一閃させるとともに、彼女の目の前にいた敵がたちまち真っ二つになっていく。


 先ほど火の精霊らしきモンスターがいた部屋と反対側に続く道を歩いていた四人だったが、その前に多くの敵が散発的に立ちふさがったのだ。


 小グループ単位で現れたため、ほとんどの敵は魔法を使わずに片づけることになったのだが、さきほど新しい武器を手に入れたソーニャの活躍が目覚ましかった。


 彼女が剣を振るごとに、文字通り敵が叩き斬られ、あるいは吹き飛ぶ。


 剣の威力もさることながら、それを自在に操るソーニャの技術も並みのものではない。


 後衛の絵理、杏花はほとんど見ているだけで眼前の敵が壊滅していった。途中、より多くの敵が現れた時、援護のためにマジックシールドとマジックウェポンをかけたりはしたがそれだけだ。というか、それらの支援魔法を使う必要すらなかったかもしれない。


 ソーニャの隣で同じく剣を振るっていた透夜は思う。


 黒い剣を構え、黒い鎧を身に着けて戦うソーニャは、以前彼女が口にしていたような物語の勇者であるかのように凛々しく美しいと。


「ふう……そろそろかしら?」


 最後に立ちふさがった敵をそのままの勢いで斬り伏せたソーニャが、透夜たちを振り返る。


 彼女の言葉の通り、いつの間にか全員の視線の先に通路の終わりらしき広い空間が広がっていた。


「すごかったです、ソーニャ先輩!」


 絵理は小走りに駆け寄り、上気した顔でソーニャの戦いぶりを賞賛した。もちろん杏花も透夜もその言葉に同意するしかない。まさに暴れ回ると形容するしかないような活躍だったのだから。


「ありがとう。まあ、この剣のおかげかもしれないわね」


 そう言うとソーニャは黒い刃を持つ剣を背へと戻す。とはいえ、その表情は満更でもない。


 敵を散々に蹴散らした四人はやがて、その大きく開けた場所へと出た。


 幸い、視界の中に新たな敵の姿はない。このあたりにいたモンスターは、さきほど通路に出てきたやつらがそのほとんどだったのだろう。


 しばらく左右を見ていくつかの通路が伸びていることを確認すると、透夜たちはそのひとつに向かって再び歩き始めた。

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