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007 初めての魔法に挑戦する絵理と、透夜の自己鍛錬方法

「それじゃあ実際にやってみようか」


「うん。よろしくね」


 食事後に少し休憩をはさんだあと、いよいよ絵理は透夜の指導のもと魔法の行使に挑戦することとなった。


「まずは簡単で安全なものから……そうだね。魔法の明かりを作ってみよう。これは魔法の文字もひとつで済むし、難易度的にも成功しやすい。このダンジョンは真っ暗な部屋がたまにあるから、覚えておいて損はないよ」


「わかった」


 この迷宮は大がかりな魔法が全体にかかっているのか、通路も部屋もそれなりの明るさが保たれている。だから今透夜が言ったように、真っ暗な部屋があるというのは絵理にとって初耳だった。


 実は押し付けられた初期装備のなかに松明らしきものがあり、どこで使うのだろうと絵理は不思議に思っていたのだが、一つの疑問が解けたことになる。


「ちょっと待っててね。このページに……うん。この文字の形を見てくれる?」


 透夜が示すページには先ほど彼が空中に描いたような、神秘的な文字が大きく記されている。


「この形を、さっきの浅海くんみたいに指で描けばいいのね?」


「そう。指先に魔力を集中させる必要があるんだけど、慣れるまでちょっと難しいかも。それで発音はこれ。僕がまずやってみせるよ」


 そういうと透夜は正面を向いた。そして意識を集中する。宙に指で魔法の文字を描き、透夜はその言葉を口ずさむ。


ライト()


 すると宙に浮かぶ魔法の文字が大きく強く輝いて消滅し、その代わりに透夜と絵理の眼前に小さな光があふれた。


 炎による明るさとは全く違う、透夜や絵理から見ると蛍光灯のような明かりを彷彿とさせるそれは、彼らの目の前で星のように小さな光を周囲へと投げかけていた。


「うわあ……ほんとうに何度見ても、魔法ってすごいとしか言いようがないね」


「僕も初めて魔法を使うことに成功した時は感動したよ。最初は何度も失敗したし、本当に魔法なんて使えるのかなって思ったこともあった」


「あたしも、こうして目で見れなかったら絶対に信じられなかったよ」


「魔法で大事なのはイメージすることだから、そのハードルをもう越えている霧島さんならあっさりと成功するかもね。じゃあやってみようか」


「うん!」


 絵理はいざ実践しようと正面に向き直る。


「ああ、大きくて強い光をイメージすると魔力の消費量も大きいし発動させるのも難しくなるから、最初は今みたいな小さくて弱い光でイメージしてみて」


「分かった! それじゃあやってみるね……すう……」


 先ほどの透夜を見様見真似で、宙に文字を描く絵理。


 先ほど透夜が言ったように、イメージが固まっていることが幸いしたのか、その指先に絵理の魔力の輝きが生まれ、空中にまばゆい軌跡が刻まれていく。併せて魔法の文字の発音を慎重に行なう。


 しかし『光』を意味する文字がもう少しで完成するというところで途切れてしまった。


「あっ……」


「惜しい。でももうちょっとだったよ。最初から指先に魔力を集められただけでも凄いよ」


「うん。もう一度やってみるね。要領は分かったし、今度はちゃんとやれそう!」


 絵理はもう一度、先ほどと同じ行動をなぞった。


 途中まで上手くいっていたのだから、あとはそれを最後までやり遂げるだけだ。


 今度も同じように、絵理の指先から生まれた輝く軌跡が宙をネオンサインのように彩り、魔法の意味を持つ言葉が絵理の口から紡がれ……。


ライト()


 文字を描き終えるのと同時に、絵理は言葉も発し終えた。


 すると、彼女が望んだ通りの光源が、何もない空間に生まれた。先ほど透夜が生んだ光の隣で、双子星のように周囲を明るく照らしている。


 その光景を見て、絵理が瞳を輝かせた。


「わあ……すごい……これあたしがやったんだよね!?」


「もちろんそうだよ。よかったね、霧島さん!」


「うん! ……あ、あれ……?」


 突然大きな疲労を感じ、絵理は両手を床について前のめりになった己の体を支えた。連続して魔法を使ったことで、絵理の精神の力が大きくこそげ落ちていたのだ。


「だ、大丈夫?」


「うん……大丈夫だけど……ほんとうにすっごく疲れるのね……魔法って……」


「ごめん、すっかり忘れてたよ。僕も最初はそうだったっけ……駄目な時は魔法の発動にも失敗して疲れるだけだったりもしてね」


「今は平気なの?」


「そうだね。もう失敗することも滅多にないし、魔法を使ってもちょっとやそっとなら大して疲れないかな。ゲームで例えるなら魔法のスキルレベルとか最大MPとかが上がったみたいなものだと思う」


「それはどうやったら上がるの?」


 絵理は当然の疑問を口にした。さすがに今のままでは魔法を自在に使いこなすことは難しい。


「僕の場合は魔法を使うことを何度も繰り返してたら自然にそうなってた感じかな」


「へえ……筋トレみたいなものかな?」


「たぶんね。で、そのことに気付いた後は、マジックポーションって呼んでる魔力を回復させる薬を魔法で作って、それを飲んでの繰り返しをひたすらしてた」


「なにその苦行。聞いてるだけでつらくなるんだけど……」


「あとは暇さえあれば剣を振ったり、石を投げたり、ときのこえをあげたりして自己鍛錬をしてたら、なんか魔法以外も色々と強くなったみたいでモンスターもあっさりと倒せるようになったんだ」


「ときのこえって何!?」


「ときのこえはときのこえだよ」


「うう……何言ってるのかさっぱり分かんないよ……」


「それでどうする? 魔法の訓練をまだやる? さっき言ったマジックポーション、一応あるけど」


「んー……今日は、いろいろとあって疲れちゃった」


 絵理の言葉の通り、今日は彼女にとって色々なことがあり過ぎた。今彼女が感じている疲労感も、けっして魔法をつかっただけが理由ではあるまい。


「そうだね。じゃあ、今日はもうこれで休もうか」


「うん……わかった……」


 返事もそこそこに、絵理は自分の荷物の袋から毛布を取り出した。透夜も寝具を準備する。


「それじゃ……お休みなさい……」


「うん、お休み……霧島さん」


 少しすると、絵理はすぐに寝息を立て始める。絵理は気付いていなかったが、穏やかな気持ちで眠りにつけたのはこの世界に召喚されてから初めてのことであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 懐かしい気持ちになりました。 延々とびらに向かって殴りつけたりなんか投げたりという修行を行った覚えがあります
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