066 地下七階。食糧庫を見つけて喜ぶ絵理
六階から七階へと下りてきた透夜たち。
しばらく通路が続いていたものの、この階層には巨大アリはいないのか、姿を見かけることも壁に変な横穴が開いていることもなかった。
あの巨大な虫の大群は見たくないと誰もが思っており、疲れている四人の顔もいくぶん和らいだものとなる。
やがて大きな部屋に出た四人。
部屋の壁にはいくつかの扉があり、どこに行こうかと一瞬迷った透夜たちだったが、一つの扉の側に石板があることに気付いてそこへと近寄る。
その石板には短くこう書かれていた。
【食糧庫】
石板の文字を見た絵理が、祭りの会場でお菓子を売る屋台を前にした子どものようにはしゃぎだす。
「わあ、入ってみようよ! きっと美味しい食材が用意されてるんだよ!」
顔に極上の笑みをはりつけて透夜たちを振り返る絵理。
しかし、絵理以外の三人はそろって疑わしげな表情を浮かべている。
「そううまくいくかしら?」
「これまでの経験上、いまいち信用できないんだけど……」
「私も同感ですね……」
絵理が屋台のお菓子を前にはしゃぐ子どもの反応だとしたら、三人の反応は射的やくじ引きの屋台を前にした大人のようだった。どうせ何か裏があるのだろうと思っているのである。
とはいえ、入らないというのもそれはそれで気になるものだ。
結局四人はそれぞれの思いを胸に、横にあるボタンを押して扉を開け、部屋の中へと入っていった。
部屋の中で彼らを待ち受けていたのは……。
ワームだった。
◇◆◇◆◇
「ほんとおかしいよこのダンジョンを造った人!」
期待を裏切られた絵理はぷりぷりと怒っている。
他の三人は元からそこまで期待していなかったので、反動もそれほど大きくはなかった。
ただ、さすがに部屋の中に丸々と太ったワームがいた時は、その三人も目が点になって思考もしばらく停止したが。
やがて、ああそういうことかと全員が納得した。
ソーニャと透夜はもちろん、まだワームと武器を持ってやりあったことのない杏花、そして期待を裏切られたせいでやけになったのか絵理もワームへの接近戦を挑み、それぞれの武器でよってたかって攻撃し、あっさりと巨大芋虫を始末した。
結局、ワーム以外はこの部屋に食べ物と呼べるようなものは何もなく、今は透夜がその胴体から食べるための肉をナイフではぎとっているところだ。
ワームのサイズも大型だったため、数日ぶんの食料が確保できそうである。
「実はほんのちょっとだけ、この世界特有の料理とかが食べられるんじゃないかって、思ってたんだけどね……」
「たしかに私たちって、この世界の普通の料理すら味わったことないですものね」
少しがっかりしたような呟きをもらすソーニャと、色々とあきらめているような笑みを浮かべている杏花。
冷静に考えると、この世界に来て食べたものは保存食をのぞくとモンスターの肉ばかりだ。はっきり言ってひどい食生活である。
しかし結局は目の前にあるものでやりくりするしかない。部屋の石板に書かれていた食糧庫という言葉の通り、透夜たちはワームの肉という名の食料をゲットしたのだった。
ちなみにこの部屋の一画には水場もある。
ダンジョンを造った者からすると、食料に加えて飲み水も確保できるという、至れり尽くせりの場所なのかもしれない。
地下六階で休まずアリの大群と戦い続けた透夜たちは多少釈然としないものを感じながらも、ここで休息をとることにした。
まずは全員が自分に魔法でクレンジングをかける。巨大アリとの戦いでその体液やら何やらを大量に浴びていたからである。
その後、ファイアーフロアの魔法で火を起こした。火を囲んで車座になって座る。
焼いたモンスターの肉を食べてお腹を満たし、たわいもないおしゃべりをし、いつものように剣や魔法の訓練を行なう。
消費したポーションも新たに作成し、やがて眠くなった四人は寝具を用意して、おやすみのあいさつをしてまぶたを閉じる。
さすがに連戦の疲れが大きかったのか、四人は間もなく穏やかな寝息を立て始めたのだった。