063 ちょっとした清涼剤となる出来事
石壁に囲まれる通路を進む透夜たち。
あのアリたちは洞穴以外の通路も普通に闊歩していたため、透夜たちは向かってくるアリの群れとの戦いを何度か行なっていた。
もちろん、通路や壁にあの時のような穴が開いていてそこから巨大アリが現れることもあった。
今も横穴から這い出てきたアリの一団と一戦を繰り広げたところである。
「なんだかきりがないわね……」
「ええ……早く下へおりる階段を見つけたいところですが……」
ここまでの探索では、階段はもちろん役に立ちそうなアイテムも特に見つかっていなかった。
出てくる敵もひたすらにアリの群れだったのである。
一体一体はそこまで強い敵ではないとはいえ、さすがに少々気が滅入ってきていた透夜たちであった。
それに巨大なアリは倒したところで食料にもならない。さすがの透夜もこのアリを食べたいと感じることはなかった。
新たに散らばった巨大アリの残骸を踏み越え、四人はふたたび歩きだす。
そんな彼らの前に、やがて扉が見えてくる。横にボタンがあるタイプだ。
「開けるね?」
透夜の確認に全員がうなずく。中に階段があるのが理想だが、なくともせめて敵以外の何かがあってほしいものだ。
透夜がボタンを押すと、扉が音を立てて上にスライドしていく。
しばらく扉の前で待ち、敵が現れる気配がないことを確認すると、透夜はすばやく中へと入った。
壁の一画にくぼみがあることと、他の扉がもう一つあることを確認する透夜。敵の姿はどこにもない。
やがて全員が部屋へと入る。とりあえず安全そうな場所であることに、ほっと一息をついた。
改めて壁にあるくぼみに近づいてみると、中に一本のガラスビンがのっていた。それ以外は何もない。階段がなかったのは残念だが、有用なアイテムが見つかっただけでも良しとすべきだろう。
現在、ガラスビンの保有本数は透夜が6、ソーニャが4、絵理と杏花がどちらも3だ。
順当にいくなら絵理か杏花が手にするべきだろう。透夜もソーニャも、このビンの分配方法は絵理と杏花に任せることにした。
絵理と杏花はガラスビンを前にしてお互い向かい合う。
「杏花ちゃん……ジャンケンしよっか」
「いいですよ……うらみっこなしで」
こんな時の定番の勝負方法であるジャンケン。絵理と杏花が選んだのもそれだった。
「最初はグー! ジャンケンポン!」
威勢のよい両者の声とともに、最初はグーで始まったそのジャンケン。結果は絵理の勝ちだった。ガッツポーズせんばかりに喜ぶ絵理。逆にうなだれる杏花。そんな二人を前に透夜もソーニャも穏やかな表情で笑っている。
二人の勝負は少々気疲れしていた透夜たちにとって、一服の清涼剤となったようだ。
「やった! じゃああたしがもらうね!」
「残念ですが仕方ありません……大切に使ってくださいね?」
「そりゃあもちろん!」
絵理はさっそく自分のポーション用ベルトに4本目のビンをさしこんだ。まだ中身は空のままだ。今日の就寝前あたりに、このビンを使ってマジックポーションでも作ろうと考える絵理であった。