062 新たなる地下六階。とあるモンスターの巣窟だった
新たに開かれた階段を下り、別の地下六階へとやってきた四人。
通路の形も特に変化があるということはなく、石に囲まれた道を歩き続けた透夜たちはやがて大きめの部屋に出た。
やはり石壁が周囲をかこんでおり、各方位に通路が伸びている。ここまではよく見かける風景だった。しかし一か所違いがある。
壁の一画が大きな力でこじ開けられたかのように崩れており、洞穴のような真っ暗な空間が開いていたのである。
そしてその暗闇から何者かがぬうと頭を出した。
それを見た少女たちの顔があからさまにひきつる。透夜も絵理たちほどではないにしろ、嫌な気持ちが湧きおこっていた。現れたのは巨大なアリだったのである。
這い出てきた全身はさすがにワームほどの巨体ではないものの、体長が2メートルくらいはありそうだった。
頭についている二本の触覚をぴくぴくと動かし、一対の大きな顎をわななかせ、頭部側面にそれぞれついている複眼で透夜たちを見ている。やがて侵入者という判断をくだしたのか、透夜たちへと向かってきた。しかも、出てきた洞穴からは後続の巨大アリが次々と現れる。
即、撃破のための行動を開始する透夜たち。
前に並んでいた透夜、ソーニャの両者がファイアーボールを詠唱しはじめる。接敵まではまだ時間があり、じゅうぶん間に合いそうだ。
絵理、杏花はそれだけで戦いが終わらなかった時のため、前衛の二人に対してマジックシールドの魔法を行使する。
「マジックシールド!」
たちまち生まれた光の障壁が透夜とソーニャの体を薄く覆った。
「ファイアーボール!」
それに続けて前衛の二人から同時に放たれた火球が、向かってきていたアリの群れへと着弾する。直撃を受けた個体は即座にばらばらになってはじけ飛び、その周囲にいたアリたちも爆風と熱気にやられて地に伏す。
しかし巻き込まれなかった者たちは何の恐怖も感じないのか、変わらぬ足取りで向かってきた。
透夜は片刃刀を引き抜き、ソーニャも愛用の剣を両手で構える。
動く敵の数はそこまで多くない。
初めてまみえる敵ではあったものの、一体一体はそれほどの実力もなく、透夜とソーニャは剣技だけで残るアリたちを圧倒してみせたのであった。
戦いが終わり、改めて周囲を見まわす透夜たち。
部屋の中は巨大アリの残骸が所狭しと床に散らばっている。先ほどこれらの魔物が出てきた洞穴は、もう新たな巨大アリが現れる気配はない……すくなくとも今のところは。
絵理が他の三人の方に向き直って口を開く。その顔色は暗い。
「ねえ、アリって言えばさ……」
絵理が何を言いたいかは誰もが分かった。皆、同じことを考えていたのだ。
「うん……ぜったいにあれがいるよね……女王アリ……」
「可能なら出会わずに先に進みたいですね……」
透夜と杏花がそう答える。この大きなアリを生み出すような女王アリなど、はたしてどれほどのサイズがあるのか。はっきり言って見たいとは思わない。
「……このアリが開けたふうな洞穴にだけは入りたくないわね……真っ暗だし……」
ソーニャが壁に開いている丸い穴を見ながらそう言った。もしアリの巣が張り巡らされているなら、他の場所もこのようになっていても不思議ではない。
「そうですね。いつも通り石壁の通路を歩くことにしましょう」
透夜の言葉に当然のごとく全員がうなずき、四人はとりあえず一番手近な通路へと入っていくのであった。