060 一旦戻ってきた地下五階。そこにいたのは……
透夜たちはまず地下六階へと戻った。すでに探索を終えた階なので特に何事もなく、そのまま地下五階の階段へと向かう。
絵理が先導するように歩き、透夜たちはそのあとに続いて、やがてたどり着いた地下五階への階段を上った。
透夜たち三人とソーニャは出会う前、別々の階段を使って下りてきたが、今四人が上ったのは透夜たちが使ったルートの方の階段である。
戻ってきた目的地である地下五階。階段から伸びる通路を歩いて大広間に近づいた時、なにやら人の悲鳴のようなものを聞きつけた。
透夜たちは顔を見合わせ、駆けだす。
大広間に出た透夜らは、モンスターの集団と、それに囲まれている人間たちの姿を発見した。その囲まれている者たちは背格好からして、明らかに見咲ヶ丘高校の生徒たちであった。
「く、くるな!!」
「くそ……魔法を撃っても剣で斬っても倒せない……なんだこいつは!?」
「こ、こっちもなんとかしてよあなたたち!」
「無理だ! 手一杯なんだよ!」
生徒らはワーム、青騎士、スライムといったモンスターの群れに対して明らかに劣勢だった。透夜たちは即座に彼らを助けるため動く。
「ファイアーボール!」
「ライトニングレイ!」
透夜がファイアーボールを撃ち、青騎士の群れを一撃で吹き飛ばす。
続いて絵理と杏花が放った雷を帯びた光がワームを、スライムをまとめて刺し貫いた。
そこにソーニャが両手剣を持って駆けより、魔法の範囲外にいた敵を次々と斬って捨てる。剣で対処すべき相手ではないスライムには近づかず、ソーニャは声を張り上げた。
「今のうちに立て直して!」
「!? ……あ、ああ!」
突然の助けに戸惑いながらも返事をする生徒たち。
崩れた包囲の一画から、その一団はからくも脱出した。
透夜も片刃刀を持ってソーニャと一緒に敵を斬りまくり、絵理と杏花は魔法でそれを援護し、最後はしぶとい緑のスライムにもとどめをさした。
四人の勇姿とあっさり撃破されていくモンスターとを、先ほど助けられた男女複数人はただ呆然と見つめていた。
◇◆◇◆◇
大した時間もかからずに壊滅した敵の一群。
透夜たち四人とさきほどの集団が向き合った。彼らは六人おり、男女の数はちょうど半々だった。
鎧を装備している者もいたが、ほとんどは見咲ヶ丘高校の制服を身に着けているままである。
が、しかし。その一団は一年生の透夜たちにとっても、二年生のソーニャにとっても馴染みのない顔ぶれだった。
ただ、その中の一人を見て何かを思い出したかのようにソーニャが目を丸くする。
「生徒会長?」
「君は二年の……セレブリャコワ君だったか」
そう、一人は見咲ヶ丘高校の生徒会長だったのである。三年生だ。
つまり、この一団は三年生で構成されている可能性が高い。
彼らが助けられたことの礼を言うところから始まり、お互いに自分たちの現状をそれぞれ語る。
三年生も、やはり透夜やソーニャと同じようにある日突然、クラスの人間がまとめてこの世界に召喚されたそうだ。
はっきりしたことは分からないが、一年生、二年生よりもわずかに遅れてこの世界にやってきたのではないかという印象をそれぞれが持った。
透夜たちがすでにもっと下の階を探索したことを伝えると、生徒会長は自嘲ともとれる笑みを浮かべる。
「やれやれ、魔法も使えるようになって自信があったんだが、このザマだ。君たちが来てくれなかったらどうなっていたことか」
そう言って生徒会長はあたりを見まわした。
話を聞いたところ、この大広間にまだ大がかりなトラップが残っていたらしい。
メンバーの一人が踏んだスイッチでこの大広間の壁の多くが開き、そこから先ほどの大量の魔物が現れたそうだ。たしかにその言葉を裏付けるように、あちこちの壁の形が変化している。
「しかしなぜこの階に戻ってきたんだ? まあおかげで助かったわけだが……」
「その一番深い階層は行き止まりでして……今は別の道を探しているところなんですが、ちょっと気になることがあってこの階に戻ってきたんです」
そう答える透夜を生徒会長はまっすぐに見つめた。
先ほどの戦いぶりが自分たちよりもはるかに格上であることは、生徒会長だけでなくグループ全員がすでに理解するところである。
「……そうか……まだまだ探索を続けるつもりなんだね?」
「はい」
透夜、そして絵理たち三人の少女も頷く。
「分かった。協力すると言いたいところだが……残念ながら、我々は足手まといになるようだ。大人しく戻ってみなの護衛に努めることにしよう」
「他のみんなは無事でしょうか?」
透夜の質問に生徒会長は頷く。
「一年と二年を含め、現在は大半の生徒が三階に留まっている。あの階には巨大芋虫もいないようだからな」
ソーニャはもちろん、絵理も杏花もそれを聞いてほっとした表情を浮かべた。
絵理も杏花も、許せるかそうでないかは置いておいて、かつての仲間が無事でいるならやはりそれに越したことはない。
「我々が四階で手に入れた魔法の本も、全ての生徒に見せて魔法を身に着けてもらったほうがいいかもしれないな。全体的に戦力を強化しておけば何かの際に役に立つだろう」
生徒会長が仲間を振り返りながらそう言った。他の生徒たちも不満はないのか頷いて返す。
「できうる限り危険は排除しておきたいし、魔法の力さえあれば巨大芋虫にだって立ち向かおうという気になるかもしれない」
生徒会長の言葉に対し、ひょっとするとそれは自分と絵理がかつて発見し、そのまま置いてきたあの本かもしれない……と透夜は思った。
お互いさらに言葉をいくつか交わしたあと、透夜たちと三年生は居住まいを正して向かい合う。
「それではくれぐれも気をつけてくれ」
「はい……生徒会長たちもお気をつけて」
三年生たちは四階への上り階段を目指して歩き出した。
透夜たちとしては、まず水の補給をしないといけない。
かつて地下五階で利用した水場へと向かう。喉を潤し、ずいぶんと中身が減っていた水袋にも水を補給する。
ここに来るまで多くの敵と戦い、そして先ほど魔法を多く使った疲れもあることだし、今日はもうこの部屋で眠ることにした。