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055 青騎士と赤騎士

 広間から伸びる通路のひとつを選び、そこに足を踏み入れた透夜たち。やがて大部屋のような場所にたどり着く。


 入った部屋の正面は、やたらと大きい扉が鎮座していた。


 どうやって開けるのだろうと考えた透夜たちを前にして、時をおかずにその大扉が上へとあがっていく。開いていく扉と床との間に、何者かが複数立っているのが見えた。


 透夜たちは身構える。


 やがて扉のほとんどが上がりきり、中の様子がはっきりと分かった。そして扉が上がるのを待っていたとばかりに、その中に潜んでいた者たちが広間へと足を踏み入れる。


 金属的な足音を響かせてぞろぞろと出てきたのは、地下五階で見かけた青い騎士。


 そしてその青い騎士たちの後ろから、遅れて部屋に入ってきた者がいた。赤い鎧をまとう騎士だ。鎧の下は青い騎士と同じで黒い影法師しか見えない。そして兜の奥は二つの目が光っていた。


 武具の形そのものはさすがに差があったものの、青い騎士の同タイプの敵だろう。


 体格も青騎士より少し上背があり、剣も盾も大きくなっていて、その構えもより洗練されているように思える。


 それにここは地下七階だ。透夜も初めて見たこの赤い騎士は、青騎士よりも上の実力があると考えるべきである。


「ファイアーボールを撃ったあとあの赤いやつに向かいます。ソーニャ先輩と杏花さんで青騎士の相手をお願いします」


「分かったわ。任せておいて」


「はい」


 ソーニャは両手持ちの剣を使っているし、杏花は身を守る鎧がまだ完全ではない。


 となるとやはり、盾も鎧も身に着けている自分があの赤い騎士に対処すべきだろう。


「絵理ちゃん、援護をお願い」


「うん!」


 絵理の元気な返事を聞くと同時に、透夜はファイアーボールを放つため、魔法の文字を指で宙に描いて詠唱を開始した。


 ソーニャは剣を構え、杏花は防御力に不安が残る自分自身にマジックシールドを使うため、その指で文字を描き、魔法の言葉を口ずさむ。


 絵理は同じくマジックシールドを行使する。もちろん赤い騎士へ挑むつもりの透夜に向けたものだ。


 騎士たちは自分らが魔法で狙われているということも認識できていないのか、駆けることもなく近寄ってくる。


マジックシールド( 魔 盾 )!」


 絵理と杏花がほぼ同時に魔法を完成させ、透夜と杏花の身を光の障壁が覆う。


ファイアーボール( 爆火球 )!」


 やや遅れて透夜がファイアーボールを撃ちこんだ。赤い騎士と自分とをさえぎるように並んでいる青騎士たちに向けて。


 赤い火球が着弾し、爆音と同時に赤い炎をまき散らす。


 範囲内にいた青騎士はたちまち鎧のパーツを吹き飛ばされ、中の影法師も消滅した。赤い騎士はその余波に巻き込まれなかったのか、それとも大した影響を受けなかったのか、悠然と歩いてくる。


 赤い騎士の前に立ちふさがっていた青騎士たちは、今の一撃で大半がばらばらになって床に転がった。しかしさすがに、赤い騎士が近づいてくる前にもう一度ファイアーボールを撃ちこむ暇はなさそうだ。


 透夜は右手に片刃刀を、左手に五角形状の盾を構え、赤い騎士へと突っ込んだ。透夜から少し離れた場所でもソーニャがやや前に出る形で、ソーニャと杏花の共同戦線が張られている。


 まだ残っていた青騎士を透夜が駆けよりざまに切り捨てると、その勢いのまま今度は赤騎士へと剣を上段から降り下ろした。


 しかしその斬撃は騎士が持つ赤い盾によって防がれる。耳障りな音がして盾をえぐったものの、それだけだった。


 今後は赤騎士が反撃の刃を振るう。透夜はそれをかわし、間合いをとる。


 さらに踏みこんできた赤騎士が横に剣を薙いだ。透夜は左手の盾でそれを受け流す。


 一旦後ろに下がった後、再度距離をつめて反撃した透夜であったが、愛刀は敵の体をとらえることは出来なかった。敵の持つ剣がその刃を受け止めたのだ。金属音と共に火花が散る。


 強い。青騎士よりも圧倒的に。膂力も剣技も段違いである。


 ただ、それでもまだまだ透夜を苦戦させるほどではなかった。


 数度切り結び、生まれた隙をついて透夜が剣を一閃させる。今度は防がれることなく、赤い鎧の一部が断ち切られた。破損した箇所から黒い影がゆらぎ、一部はガスのように漏れでて消滅する。


 透夜の後ろでは絵理がソーニャと杏花をサポートしつつ、透夜の様子にも目を配っていた。


 最初は透夜を案じるような瞳で見つめていたものの、その背中を見る目からはやがて不安の色が消えていった。魔法による援護もソーニャと杏花へ集中して行う。


 透夜が勝利する確信が絵理の中に生まれたからである。


 その予感は間違うことなく、少しの時間のあと透夜は目の前の赤い騎士を刀一本で降すことができた。


 それとほぼ同時に、ソーニャと杏花も残った青騎士をすべて片づけ、この部屋の敵は全て撃破されたのであった。


    ◇◆◇◆◇


「ふう」


 戦いが終わって一息ついたソーニャが腰から一本のポーションを引き抜き、フタを開けて中身の水色の液体を口へと運んだ。ヒーリングポーションである。


 さすがに数が多かったので、何度か青騎士の剣や盾による攻撃をその身に受けてしまったのだ。ソーニャの場合、剣を持っている時の戦い方のスタイルが、どちらかというと攻撃よりということもある。


 幸い装備している黒い鎧のおかげもあって大した怪我は負っていないが、傷を癒しておくに越したことはない。


 水色の液体がソーニャの喉を通り抜けていくと、たちまちソーニャの体に刻まれていた傷が治っていった。


「……こうして思うと、ポーションのことを知らずに単独で行動していた頃がずいぶんと無謀だったと思うわ……」


 ソーニャは過去の自分を振り返りながら独り言をこぼす。


 身に着ける鎧が頑丈であることと、困ったらとりあえず距離をとってクロスボウを乱射して戦うというスタイルだったため、ソーニャはこれまで大きな傷を負ったことがない。


ヒーリングポーション( 癒 水 )


 飲み終わって空になったビンを持ち、ソーニャが魔法を行使する。ふたたび水色の液体がその中身を満たした。新たに作られたヒーリングポーションを自分のベルトに戻す。


 絵理はそんなソーニャと杏花のもとへ歩み寄る。


「杏花ちゃんは大丈夫?」


「ええ、私は大丈夫です絵理。ソーニャ先輩にも何度かかばってもらいましたから」


 杏花が感謝の意を込めた視線をソーニャに向けると、銀髪の少女は照れくさそうに早口で答えた。


「仲間なんだし、持ちつ持たれつ、よ」


 籠手を身に着けたとはいえ、杏花はまだ体の大部分を制服が覆っているのだ。ソーニャとしては当然の行為と言えた。


「あの赤い騎士はどうだったの? 透夜」


 ソーニャが透夜に、単身で挑んだ赤い騎士の実力について尋ねた。


 ソーニャも透夜たちと出会う前、上の階で青い騎士と戦ったことはあったが、赤い騎士の姿は今まで一度も見たことがなかったからである。


「そうですね……青い騎士に比べるとかなり強かったです。少なくともワームのほうがよほど楽な相手だと思いました」


「あ、あのワームよりも強かったの!?」


 ガーン、といった擬音をさせるかのような驚きの表情を浮かべる絵理。ソーニャはそんな後輩に顔を向けて小さく笑みを浮かべた。


「ワームは慣れれば意外と剣だけでもなんとかなるわよ、絵理」


「し、信じられません……透夜君もソーニャ先輩もすごいです」


 ソーニャの言葉に杏花も感嘆の声をもらした。


 絵理と杏花はまだ一対一ではもちろん、武器を使ってワームとやりあったことが一度もない。


「ただ、さすがに絵理はもう少し強い武器を手に入れてからのほうが良いかもしれないわね」


 絵理が腰に下げている剣は、この異世界で現地の兵士に押し付けられた粗末な剣である。言い方を変えれば初期装備のままだ。


「正直言って、強い武器が手に入ったとしても、あまり戦いたいとは思いませんが……」


 絵理はソーニャの指摘に困ったような顔で答える。


 かつてのような苦手意識はもうないものの、巨大な芋虫に剣一本で挑みたいかと言われると話は別である。


「まあ人には得手不得手があるのだから、無理してやる必要はないわ。剣でも弓矢でも魔法でも、得意な手段で勝てるならそれで特に問題はないのだし」


「はい。私はやっぱり魔法をもっと極めたいですね」


 一応剣を使っての戦闘も最低限こなせるものの、魔法によってパーティーの力になるべきというのが今の絵理の考えである。


「私がより鍛えるべきは剣の腕かな……赤い騎士、機会があったら私も一度戦ってみようかしら」


 剣を使って戦う者の矜持なのか、その青い瞳には透夜への対抗心のようなものが燃えていた。


 透夜とソーニャは使う武具の違いもあってそれぞれ得意とすることに差はあるものの、戦いの技量そのものは似たようなものだと透夜は思っていた。


 そしてその印象はソーニャからも同様だったらしい。


 いつの間にかライバル扱いされているらしいことに、透夜は困り笑顔で先輩の視線を受け止める。


「……わかりました。ただ、あまり無茶はしないでくださいね」


「ふふ、心配してくれてありがとう。まあ、また出てきたらの話よ」


 ソーニャは不敵な笑みを浮かべてそう答えた。

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