053 地下七階。クロスボウ無双
「あ、ちょっと止まって」
「どうしたの?」
階段を下りて地下七階にやってきた透夜たち。四人は下りてきた地点から伸びる通路を歩いていたのだが、ある時透夜が立ち止まって声を発する。
透夜の制止に全員が従い、絵理が理由を問いかけた。透夜は通路の先の天井を指さす。
「あそこ、ジャイアントバットがいるみたいだ」
透夜の言葉の通り、ジャイアントバットの群れが天井にはりついているようだ。
休んでいるのか、羽根を閉じた形で黒い塊がびっしりと並んでいる。
「数も多いみたいだし、ファイアーボールを撃ってもらえる? 倒せなかったぶんは私がこのクロスボウで始末するわ」
ソーニャが携帯しているクロスボウを準備しながらそう言った。
「あたしも投げナイフで援護します!」
「抜けてきた相手は私がメイスで叩き落としますね」
絵理、杏花もそれぞれ得物を手に持つ。
透夜はうなずくと、全員の準備が終わるのを見計らい、ファイアーボールの詠唱を開始する。
「ファイアーボール!」
宙に描かれた文字が消え、生まれた赤い火球が通路の先へと飛翔していく。
間もなく火球は大コウモリの集団の中で、紅蓮の炎と爆音をまき散らした。巻き込まれたジャイアントバットたちは瞬く間に床へと落ちていく。突然の惨劇にたちまち翼を広げたコウモリたち。数体は透夜とは逆の方へと逃げていったものの、大半は透夜たちの方へと向かってきた。
「はっ!!」
そこにソーニャが構えたクロスボウから矢が放たれる。ソーニャがトリガーを引くたび次弾が装填され、次々に発射される矢は巨大な翼を持つコウモリの頭や胴体を貫き、始末していく。剣技に劣らぬ見事な腕前であった。
「えい!!」
絵理も投げナイフを飛んでくるコウモリへと投擲する。ソーニャほどではないにしろ、ある一体は急所に命中させて仕留め、ある一体は翼を裂いて地に落としたりとじゅうぶんな戦果であった。
それでも抜けてくる他のコウモリは杏花のメイス、透夜の片刃刀によってあっさり撃破されていく。
間もなく、ジャイアントバットの群れは壊滅したのであった。
ソーニャは小さく息を吐きながらクロスボウを降ろした。飛んできた大コウモリの大半を討ち落としたのは彼女である。
「そのクロスボウ、すごいですね!」
ソーニャが実際にクロスボウを使う所を目の当たりにした絵理が、尊敬の眼差しでソーニャとその得物を見つめた。
絵理の感嘆の声に、ソーニャはやや謙遜混じりの笑顔と共に答える。
「ありがとう。確かに良い拾い物をしたと思うわ」
ソーニャの言葉の通り、ダンジョンで手に入れたこの武器は彼女の戦闘力を大幅に向上させていると言っても過言ではない。もちろん狙ったターゲットへ命中させる技術はソーニャ自身が培ったものであるが。
「矢を回収するから、ちょっと待っててね」
「はい。その間の警戒は任せてください」
「あ、あたしもナイフを回収しなきゃ」
ソーニャと透夜のやり取りに、自分も飛び道具を使ったことを思い出した絵理が慌てて動く。
透夜と杏花は先ほど逃げていったコウモリたちが戻ってくるのではないかと前方を見据えていたが、二人が道具を回収し終えてもジャイアントバットを含む敵がやってくることはなかった。