052 ソフィアのお願い
広間から三つに伸びる通路のうち、残る右端の道へと入っていく四人。
すぐに折れ曲がる道をそのまま進んでいくと、やがてさらに下へといざなう階段が口を開けていた。
地下七階への入口である。
四人は顔を見合わせ、全員が先に進むことに異論がないことを確認する。
透夜が先行して踏み出そうかと考えたその時、ソフィアが口を開いた。
「……ねえ、階段を下りる前にちょっとお願いがあるんだけど……」
ソフィアの言葉に透夜たち三人が銀髪の先輩へと向き直った。注目されたソフィアは、なにやら少しだけ恥ずかしそうな表情を浮かべているように見える。
訝しく思いながらも透夜は口を開いた。
「なんですか? ソフィア先輩」
「それ。そのことよ」
「え?」
なんのことやら分からず、透夜は疑問の声を口に出すしかない。絵理と杏花も同じような表情だ。
ソフィアは少しの時間、目を泳がせていたが、やがて透夜たちを正面から見つめた。
「その敬語を使うことと、先輩って呼ぶの、できたらやめてほしいかなーって」
「な、なんでですか?」
「だ、だって……ここは学校じゃないんだし、それに私たち、もう仲間なんだし……ダメ?」
そう聞くソフィアの表情は、まさにおねだりするような愛らしいものであった。
しかしその言葉を聞いた一年生の三人は、それぞれ困惑の表情を浮かべて顔を見合わせる。
「うーん、でもなんというか、その……ねえ?」
「うん……ちょっと恐れ多いよね」
「そうですよね……」
縦の関係が強固に残る学校生活において、先輩相手にタメ口で話すのはやはり抵抗がある。今のような非日常空間でも、だ。
そんな三人の様子を見て、ソフィアが慌てるように代替案を出した。
「じゃ、じゃあせめてソフィア先輩じゃなくて、ソーニャ先輩って呼んでもらえない? ソーニャはソフィアの愛称みたいなものよ」
「それくらいならいいですよ」
「はい! あたしも大丈夫です!」
「私も構いませんよ」
ソフィアが新たに提示した案は、三人にとっても受け入れられるものだったようだ。それぞれ明るい声で快諾する。ソフィアもほっと一安心といった表情を浮かべた。
「良かった……じゃあ、これからも改めてよろしくね。透夜、絵理、杏花」
「はい。こちらこそ、ソーニャ先輩」
「よろしくお願いします! でもソーニャって、可愛くていい愛称ですね!」
「確かにより親しみやすい感じがしますね」
「そ、そう? ありがとう……」
ソフィアは、いや、ソーニャは三人の反応を前にして照れくさそうに微笑んだ。