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048 確かに金色だけど……

マジックシールド( 魔 盾 )!」


 何をしてくるか分からない相手だし、見た目も強そうだ。


 そう判断した絵理と杏花は魔法の文字を宙に描き、マジックシールドをそれぞれ透夜とソフィアにかけた。杏花は今回、後ろからサポートすると決めている。


 前衛の透夜、ソフィアはうかつに仕掛けずに間合いをはかっていた。四足獣のモンスターと戦ったことはあるが、さすがに全身が金貨で構成されている敵は初めてだ。飛び掛かってくるのか、それとも……。


 攻めあぐねる透夜たちを前に、金貨で出来た獣が口を大きく開けた。まさか、とは思いつつも透夜は盾をかざす。


 その早い対応が透夜を救った。獣が口から金貨を立て続けに吐き出したのだ。


 ガガガガガガという耳障りな音が激しく鳴り響き、盾を構える手が振動で小刻みに震える。マジックシールドの魔法による防護があるとはいえ、直撃を喰らえばかなり痛そうな攻撃であった。


「ええいっ!!」


 ソフィアがブレス攻撃で動きを止めている獣に駆けより、側面から剣を横薙ぎに振るった。しかし、獣は身軽な動きでそれをあっさりと回避する。


マジックミサイル( 魔 矢 )!」


 そこに杏花が魔法を解き放つ。


 杏花から生まれた光の矢は、まさに敵をロックオンしたミサイルのように獣へと襲い掛かる。


 が、上から降ってきた光の矢をその獣はじゅうぶんひきつけてからステップで避ける。光の矢は床を傷つけるだけで終わった。


 獣が反撃とばかりにとびかかる。


 狙われたのはソフィア。避けられないと悟ったソフィアは剣の刃を平にして左腕の籠手部分で刀身を支え、突撃してくる獣へとかざした。そこに襲い来る強い衝撃。


 獣の体当たりを何とか防御体勢で受けたソフィアはマジックシールドの効果があるにもかかわらず、衝撃に数歩よろめいた。


「このっ!!」


 透夜は仲間を狙われた怒りと共に深く踏み込み、片刃刀を振るった。


 その斬撃は獣の体をとらえ、胴体を構成する金貨を数十枚削り落とした。チャリチャリと音を鳴らして金貨が床に散らばる。


 しかし、効果があるのかさっぱりわからない。体を削られながらも獣は軽やかな動きで飛び退った。


「大丈夫ですか先輩!」


「ええ、平気よ。ありがとう」


 ソフィアをかばうように彼女の前に立つ透夜。


 獣はふたたび口を開いた。


 ソフィアごと守るように透夜は盾をかざし、その黄金色のブレス攻撃を防ぐ。


マジックミサイル( 魔 矢 )!」


 再び杏花が魔法の光矢を撃ちだす。


 曲線の軌道を描いて飛来したそれを、やはり獣はかわしてみせた。飛び退った獣は石の床に難なく着地する。


ウィンドカッター( 風 切 )!」


 そこに絵理が放った風の刃が飛ぶ。


 先ほどのマジックミサイルはこのための囮だったのである。絵理と杏花の共同作戦だった。


 それでも反応して跳躍した黄金の獣だったが、さすがに文字どおり風を斬って迫る刃を完全に回避することは出来なかった。


 四足のうちの一本を緑の風が断ち切る。


 金貨で構成されているはずの獣にとってもやはり足は足なのか、空中でバランスを崩して床に転げ落ちた。


「やるわね! 絵理、杏花!」


 賞賛の言葉と共に、駆け寄ったソフィアが両手に握った剣を思い切り上段から叩きつける。


 その刃は狙いをそれることなく、見事に獣の胴体部分を数多の金貨もろとも真っ二つに断ち切った。振り下ろされた剣は勢いあまって床との間に火花を散らす。


 手にしびれを感じながらも、ソフィアは笑みを浮かべた。今のが会心の一撃であることを理解していたからだ。


 胴体を断たれた黄金の獣から躍動感が失われ、やがて数多の金貨が床に散らばる。いや、それらは今となってはすでに金貨ですらなかった。


 先ほどまで光り輝いていたはずの貨幣が、本来の自分の姿を思い出したかのように錆びたような色へと変わってしまっていたのである。


 もはやまとまることもなく床に散らばるそれらは、今となっては貨幣どころか錆びて朽ちた、ただの金属片の山にすぎない。


「ああ……金貨が……大金持ちになる計画がぁ……」


 うなだれる絵理。その隣に透夜が立った。絵理とは違い、何かを期待するような光がその目に宿っている。


「絵理ちゃん、がっかりするのはまだ早いよ。ほらあそこ」


 透夜がそう言いながら、がれきの山の一点を指さす。


 その指が示す箇所は、さび色が支配するなか唯一、黄金色を放っていた。


 そのことに気付いた絵理がすばやく駆け寄り、その金色の何かをつまみあげた。


 絵理が手にしたそれは、先ほどの黄金の獣がまとっていたそれのように、金色に輝いている。絵理が欲しがってやまなかった金貨であろうか。


 たちまち絵理の瞳も同じようにキラキラとし始めた。


「まだあるかもしれない! みんなで探そう! 金貨! 大金持ち!」


 物欲の化身となった絵理がガラクタの山へと突撃し、周囲を漁り始めた。


 その勢いにやや呆れ、引いたものの、金貨が欲しいという気持ちは全員が等しく共有している。


 四人はそれぞれさび色の山と格闘することになったのであった。


    ◇◆◇◆◇


 気が済むまで探した結果、金貨は5枚見つかった。


 しかし、そんな彼らの表情は芳しくない。


 なぜなら、一人一人がそれらを手に持ってためつすがめつした結果、それぞれがイメージする金貨というものからは程遠いものだったからだ。


「少なくとも純金じゃないと思うわよ……純金ならもっと重いはずだもの」


 それを裏付けるかのようなソフィアの発言。


 とどめをさされた絵理はあからさまに肩を落とす。とはいえ絵理も最初に金貨を手にした時から、本物ではないだろうなとうすうす感じてはいた。


 この金貨には重さ以上に足りないものがあったからだ。いわゆる品格のようなものである。


 この世界の通貨のことなど知るわけもない透夜たちであったが、そんな彼らから見てもこれは金貨というより、アミューズメント施設のゲームで使われるメダルのようなデザインとしか思えなかった。


「やっぱりメダルゲームとかで使うのかな?」


「どこにそんなのがあるの!?」


「……このダンジョン……かなあ」


 そんなことあるわけないと思いつつも、絵理の突っ込みにそう答えるしかない透夜だった。


 一応、この金貨は持ち歩くことにする四人。管理担当になった絵理はすべての金貨を小さな袋にしまいこんだ。


 入る前のような高揚感はかけらもない状態で、透夜たちはこの部屋を後にしたのである。

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