047 大量の金貨
ひとしきりお互いの健闘をたたえあった後、再び先へと進む透夜たち。
先ほどまで空間に点在していた柱も、ある地点から先には一本も存在しなかった。あのクレイゴーレムたちの姿を隠すのが主な役割だったのだろう。
正面の壁に、大きな穴が三つ等間隔に並んで開いているのが見える。
いずれも先へと伸びる通路のようだ。
「どこに進もうか?」
「ヒントのひとつでも欲しいね……」
「文字が書かれた石板のこと?」
絵理のぼやきにソフィアが尋ねた。その通りと頷く絵理。
もっとも、五階にあったものと同じような内容が書かれていたら、たいして役には立たないが。
とりあえず一旦通路の前で立ち止まり、すべての道を右から一通り覗き込んでみたところ、右の通路は途中で道が外側に折れるのが見えた。もちろんその先がどうなっているかはここから見えない。
中央の通路はかなり長い距離がまっすぐの通路で構成されており、やがて突き当りで左側に折れているようだ。そこに至るまでの道に扉などは何もないように思える。
左の通路は少し進むと行き止まりになり、そこは先ほどの絵理が願った通り、何か文字が書かれているらしい石板があった。さらにその突き当りの左側に扉があるようだ。
「左の道を行ってみましょうか」
「そうね。何か書かれてるみたいだし、それに扉も見えてるし」
透夜の言葉にソフィアが同意し、絵理と杏花も頷いた。
通路に足を踏み入れ、やがて石板と扉の前に立つ四人。肝心の石板に書かれていたメッセージは……。
【金貨をここで入手しなさい】
というものだった。
「金貨!?」
たちまち絵理が目を輝かせる。もちろん、透夜たちの顔にも期待感があふれた。
「開けてみようよ!」
「うん。一応、警戒は忘れずにね」
透夜が扉の横についているボタンを押す。扉がゆっくりと上に開いていった。そして視界に入ってきたのは……部屋の中央あたりにタワーのように積まれ、あるいは散らばっている、まばゆいばかりの大量の金貨だった。
「すごい! これで大金持ちだよあたしたち!」
「ま、待ってください絵理!」
前に立つ透夜を押しのけてでも入ろうとした絵理を、杏花が慌ててとどめた。
「な、なんで!? これだけあれば一生遊んで暮らせるよ! 将来の不安なんて消し飛んじゃうよ!」
はしゃぐ絵理であったが、残念ながらこの中では少数派であった。透夜、ソフィアが困ったような笑みを浮かべて絵理を見ている。
「明らかに怪しいって、絵理ちゃん」
「そうよ。絶対罠よこれ」
「ううー……」
諭され、絵理もようやく大人しくなる。
改めて部屋を確認してみる四人。
大した広さではないし、周りにこの入口以外の扉もないようだ。
「とりあえず、入ってみる?」
「ええ」
四人は警戒をしつつ、ゆっくりと足を踏み入れた。
先ほどは絵理に対してああ言ったものの、やはり部屋中央に大量に積まれている金貨は気になる。金貨から目をそらさず、慎重に歩を進めていたその時、透夜が叫んだ。
「気をつけて! 今、金貨が動いた気がする!」
透夜の警告を聞いた全員がそれぞれ身構えた。やがて彼の発言が正しかったことを示すかのように、部屋に散らばる金貨が浮かび上がっていく。
ひょっとして、飛び回って襲い掛かってくるのだろうか。透夜はそう考え、剣を抜いて盾を構えた。
が、しかしここからが透夜の予想を上回る。
宙を舞う金貨はやがて一か所に集まり、無数の金貨が連なって、まるで四本足の獣のような形態をとったのだ。
数多の金貨がかたどった姿は透夜たちの世界で例えると虎に近い。目や口に相当する部分もちゃんとあり、尻尾まで連なる金貨で構成され、揺れ動いている。
命が吹きこまれたかのように、やがて歩き始める黄金の獣。その姿勢と気配から、明らかな敵意を透夜たちに向けているのが分かった。
全員、武器や盾を構えてそれぞれ身構える。
「こ、攻撃しちゃっていいの?」
「……もったいない気もするけど、さすがに命には換えられないし」
絵理の問いかけに透夜が答えた。
入ってきた扉は開いたままだ。逃げようと思えば逃げることは出来るかもしれないが、獣のような見た目から足も速いのではないかと推測される。
「倒してしまいましょう。逃げても追いかけてきそうですし」
「そうね。それが賢明だわ」
杏花の発言にソフィアもうなずく。
全員が黄金の獣から視線をそらさない。期待を込めた目で輝く獣の全身を見ている。
ひょっとしたら金貨が手に入るかもしれない、という物欲にあらがうのは透夜たちには難しかった。全員が逃げずに戦うことを選んだのである。