表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/104

047 大量の金貨

 ひとしきりお互いの健闘をたたえあった後、再び先へと進む透夜たち。


 先ほどまで空間に点在していた柱も、ある地点から先には一本も存在しなかった。あのクレイゴーレムたちの姿を隠すのが主な役割だったのだろう。


 正面の壁に、大きな穴が三つ等間隔に並んで開いているのが見える。


 いずれも先へと伸びる通路のようだ。


「どこに進もうか?」


「ヒントのひとつでも欲しいね……」


「文字が書かれた石板のこと?」


 絵理のぼやきにソフィアが尋ねた。その通りと頷く絵理。


 もっとも、五階にあったものと同じような内容が書かれていたら、たいして役には立たないが。


 とりあえず一旦通路の前で立ち止まり、すべての道を右から一通り覗き込んでみたところ、右の通路は途中で道が外側に折れるのが見えた。もちろんその先がどうなっているかはここから見えない。


 中央の通路はかなり長い距離がまっすぐの通路で構成されており、やがて突き当りで左側に折れているようだ。そこに至るまでの道に扉などは何もないように思える。


 左の通路は少し進むと行き止まりになり、そこは先ほどの絵理が願った通り、何か文字が書かれているらしい石板があった。さらにその突き当りの左側に扉があるようだ。


「左の道を行ってみましょうか」


「そうね。何か書かれてるみたいだし、それに扉も見えてるし」


 透夜の言葉にソフィアが同意し、絵理と杏花も頷いた。


 通路に足を踏み入れ、やがて石板と扉の前に立つ四人。肝心の石板に書かれていたメッセージは……。


【金貨をここで入手しなさい】


 というものだった。


「金貨!?」


 たちまち絵理が目を輝かせる。もちろん、透夜たちの顔にも期待感があふれた。


「開けてみようよ!」


「うん。一応、警戒は忘れずにね」


 透夜が扉の横についているボタンを押す。扉がゆっくりと上に開いていった。そして視界に入ってきたのは……部屋の中央あたりにタワーのように積まれ、あるいは散らばっている、まばゆいばかりの大量の金貨だった。


「すごい! これで大金持ちだよあたしたち!」


「ま、待ってください絵理!」


 前に立つ透夜を押しのけてでも入ろうとした絵理を、杏花が慌ててとどめた。


「な、なんで!? これだけあれば一生遊んで暮らせるよ! 将来の不安なんて消し飛んじゃうよ!」


 はしゃぐ絵理であったが、残念ながらこの中では少数派であった。透夜、ソフィアが困ったような笑みを浮かべて絵理を見ている。


「明らかに怪しいって、絵理ちゃん」


「そうよ。絶対罠よこれ」


「ううー……」


 諭され、絵理もようやく大人しくなる。


 改めて部屋を確認してみる四人。


 大した広さではないし、周りにこの入口以外の扉もないようだ。


「とりあえず、入ってみる?」


「ええ」


 四人は警戒をしつつ、ゆっくりと足を踏み入れた。


 先ほどは絵理に対してああ言ったものの、やはり部屋中央に大量に積まれている金貨は気になる。金貨から目をそらさず、慎重に歩を進めていたその時、透夜が叫んだ。


「気をつけて! 今、金貨が動いた気がする!」


 透夜の警告を聞いた全員がそれぞれ身構えた。やがて彼の発言が正しかったことを示すかのように、部屋に散らばる金貨が浮かび上がっていく。


 ひょっとして、飛び回って襲い掛かってくるのだろうか。透夜はそう考え、剣を抜いて盾を構えた。


 が、しかしここからが透夜の予想を上回る。


 宙を舞う金貨はやがて一か所に集まり、無数の金貨が連なって、まるで四本足の獣のような形態をとったのだ。


 数多の金貨がかたどった姿は透夜たちの世界で例えると虎に近い。目や口に相当する部分もちゃんとあり、尻尾まで連なる金貨で構成され、揺れ動いている。


 命が吹きこまれたかのように、やがて歩き始める黄金の獣。その姿勢と気配から、明らかな敵意を透夜たちに向けているのが分かった。


 全員、武器や盾を構えてそれぞれ身構える。


「こ、攻撃しちゃっていいの?」


「……もったいない気もするけど、さすがに命には換えられないし」


 絵理の問いかけに透夜が答えた。


 入ってきた扉は開いたままだ。逃げようと思えば逃げることは出来るかもしれないが、獣のような見た目から足も速いのではないかと推測される。


「倒してしまいましょう。逃げても追いかけてきそうですし」


「そうね。それが賢明だわ」


 杏花の発言にソフィアもうなずく。


 全員が黄金の獣から視線をそらさない。期待を込めた目で輝く獣の全身を見ている。


 ひょっとしたら金貨が手に入るかもしれない、という物欲にあらがうのは透夜たちには難しかった。全員が逃げずに戦うことを選んだのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ