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046 立ちふさがる土人形の群れ

 四人は朝起きると体と装備を綺麗にする魔法、クレンジングを唱えた。ソフィアも一人で冒険していた時は、やはり朝一で自分にクレンジングをかけていたらしい。


「それじゃ、昨日の場所に戻りましょうか?」


「ええ」


 昨日ソフィアと出会った場所に戻って、そこから新たに探索をすることにした四人。


 透夜たちは休息をとった部屋から外にでて、階段前の広間に戻ってくる。


 壁際のふたつの階段を目にして、思い出したように透夜が尋ねた。


「そういえば、ソフィア先輩はどっちの階段からこの六階に下りてきたんですか?」


「私は左側……ここからだと向かって右の方からよ」


「なるほど、じゃあ僕たちと違うところから下りてきたんですね」


「下りたところにちょうどあのキノコ……ファンガスが通路そばにいるのを見かけてね。倒した後、せっかくだしそのまま手近なその通路に入っていったの」


 特に敵と出会うこともなく四人は昨日の場所へと戻ってくる。あたりには昨日彼らが倒したワームの残骸が残っていた。


「とりあえず、先に進んでみましょう」


 広い空間だが、視界の先には太い柱が点在している。そのせいで先がほとんど見通せない。


 警戒しつつ透夜たちがその側へと近づいていくと、最も手近な柱の陰から一体の異形が姿を現した。


 土を固めて作られた人形といったところだろうか。頭部には目と鼻を思わせるようなでっぱりもある。


 この迷宮に入ったばかりの頃、地下一階あたりでよく見かけたタイプの敵だった。透夜はそれらをクレイゴーレムと呼んでいた。頭部が弱点なのか、そこを破壊したり胴体から切り離したりすれば倒すことができる。


 まだ戦いに不慣れだったころでも、クラスメイトたちと集団で戦えばあっさりと撃破できるような、そこまで強くもない敵。


 ただ、さすがにはるか地下の階だからか、かつて見たものよりも大きなサイズであった。


 上階で見たものは高さもせいぜい80センチ程度だったものの、目の前にいるのは高さ120センチくらいはあろうか。そのぶん体も横に大きくなっていた。


 それだけパワーアップしていると考えていいだろう。


「上で見た連中の強化版ってところかしら?」


 早くも両手剣を構えていたソフィアがそんな感想を述べながら前へと出る。


 透夜も片刃刀と盾を持って彼女と肩を並べた。


「そうみたいですね。ちなみに僕はクレイゴーレムって呼んでます」


「奇遇ね。私も同じ名で呼んでたわ」


 杏花もメイスと盾を、絵理も左手に杖を持ち、右手はいつでも魔法を使える体勢をとる。


「私が行くわ」


 言うが早いか、ソフィアは石の床を蹴った。クレイゴーレムも彼女をターゲットにしたのか無機質な目を向けた。


 幸い、上で見たタイプのものと動きの反応速度は大差ない。


 クレイゴーレムが拳を振るうが、ソフィアから見てそれは緩慢な動きだった。


 やすやすと回避すると、そのまま大きな剣を目の前の土人形へ上から叩きつける。


 彼女が持つ剣は見事にその頭部を断ち切った。


 人型の土人形は、先ほどまでの姿がかりそめのものだったかのように、ただの土くれとなって石の床に散らばった。


「す、すごいですソフィア先輩!」


 絵理が賞賛の声をあげた。杏花ももちろん絵理と同じようにその腕前に感嘆している。


 透夜に引けをとらないような剣さばきであった。ここまで一人でやってきただけのことはある。


「こいつが大したことないだけよ」


 と言いつつも、ソフィアもまんざらではない笑みを浮かべた。しかし、ふたたび表情が真剣なものとなる。新たな敵の気配に気づいたからだ。


 前方に立ち並ぶ他の柱の陰からもさらに複数のクレイゴーレムが現れ、続々と進み出てくる。さすがに数が多いと厄介だ。


 ソフィアは一旦下がって距離をとる。透夜もその隣に陣取った。


 再び並んだ二人を見て絵理は、あたしももっと剣の腕を磨けば透夜くんの隣に立てるかも……と考えた。杏花は杏花で、私もせめて鎧があれば……と自分の装備を恨めしく思った。


 そんな思惑があることとは関係なく、クレイゴーレムの群れは透夜たちにゆっくりと向かってくる。


マジックシールド( 魔 盾 )!」


 まず絵理が杏花に光の防壁を張った。杖の力ではなく、自分の魔力を消費してである。杏花が先ほど考えたように、やはり防御力に不安があるからだ。


 上の階でみたこの土人形はそこまで大した膂力はなかったものの、さすがにサイズが大きくなっている目の前の敵を見て楽観的にはなれない。


「ありがとうございます、絵理」


 自分を包む優しい光を頼もしく思い、杏花も前に出て透夜と肩を並べた。


 前衛は杏花、透夜、ソフィアという形になっている。


 それを見て、自分にも光の障壁を張って前に出ようかなと一瞬考えた絵理であったが、自重した。さすがに個人の感情をはさみすぎるのは良くない。剣を用いての戦いはまだまだ得意とは言えないし。


 クレイゴーレムたちに連携する知恵はないようで、それぞれが単独で動いている。


 透夜は突出してきた一体をターゲットにして踏み込んだ。


 やはり拳を振るうクレイゴーレムであったが、透夜はその腕に斬撃を合わせた。あっさりと透夜の片刃刀がその腕を切り飛ばす。邪魔がなくなった透夜はさらに踏み込み、土人形の首を目掛けて剣を横に払う。


 頭と胴体が切りはなされたクレイゴーレムは、さっきソフィアに真っ二つにされた土人形と同じように、人型という姿を失って土砂と化した。


 杏花も敵の左右の腕を盾で受け、あるいは回避し、バランスを崩した敵の背後に回ると、手頃な高さにある頭部にむかって右手のメイスを叩きつけた。まだ動く気配があったのでもう一撃。連撃によって頭を叩き壊され、このゴーレムもあっさりと崩れおちる。


 少し離れているクレイゴーレムの一体は、透夜たちの後ろから飛来した氷の槍がその頭部を貫いた。絵理が唱えたアイスジャベリンの魔法である。


「ふふっ。みんなやるわね」


 先日のワーム相手の時といい、今の戦いといい、全員の実力が頼もしいものであると再確認したソフィア。


アイスジャベリン( 氷 槍 )!」


 ソフィアも覚えたてのアイスジャベリンをクレイゴーレムに向けて放つ。


 生まれた氷の槍がゴーレムの頭を貫き、撃破した。


 これまで自分が使っていたマジックアロー――つまり透夜たちにとってのマジックミサイル――よりも高威力であることがすぐにわかった。もちろん消費する魔力の量もそれに伴って増えているものの、そんな疲労をものともしないほどの高揚感に包まれているソフィア。


 クレイゴーレムはまだまだ残っていたものの、その数をもってしても強敵と言えるような相手ではなかった。さほどの時間もかからず、群れる土人形は透夜たちの手ですべて撃破されたのであった。

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