044 他のごっこ遊びの話
またも格の違いを見せつけられたソフィアはしばらく落ち込んでいたが、やがて自分を納得させて自力で立ち直った。
ソフィアが加わった透夜たち四人は、これからの方針を相談する。
まずは、やはりソフィアに魔法についてより詳しいことを教えるべきだろう。
さきほどワームと戦ったこの場所は、地下五階にあった広間のように大きい空間が広がっている。視線を遠くに向けると、ところどころ天井を支えるかのように太い石の柱が点在していた。
それらまばらに立ち並ぶ柱と、薄暗がりに隠されて先は見通せない。
今から探索を行なうと結果が出るまでに手こずりそうである。
時間もかかりそうだし、一度先ほど見つけた水場がある部屋まで引き上げることにした。
それで現在は四人で通路を歩いているところだ。
先頭は透夜とソフィアが並び、後方には絵理と杏花が続くように歩いている。
透夜と笑顔で話しているソフィアを見るたび、絵理はまたも心にモヤモヤしたものが湧いていた。
(うう……出会ったばかりなのに、あんなに仲良くなっちゃって……)
絵理は隣に並んでいる杏花の横顔を盗み見た。杏花も透夜たちをじっと見つめている。やはり、どことなく面白くなさそうな雰囲気だ。
「……子どもの頃はよく一人ダンジョンごっこで遊んだりしてたんです」
かつて絵理が、そして杏花も聞いた、透夜が子どもの頃に行っていたごっこ遊びのことが、今も透夜の口からとなりのソフィアに向かって話されていた。
(ああ、またアドバンテージが……こんなに手ごわそうな相手なのに……)
……と嘆いていた絵理だったが、それを聞いたソフィアの反応は予想外のものだった。
「……それ、ひょっとして押し入れや物置小屋の中で過ごす遊び?」
(ええええ!? ソフィア先輩なんで知ってるのそんな遊びを!? ひょっとして全国共通の遊びなの!? あたしと杏花ちゃんは知らなかったんだけど!!)
「そうです! よく知ってますねソフィア先輩!」
「ふふ……私も子どものころは一人で遊ぶのが好きだったから」
「そうなんですか!」
同じ趣味を持つ者が見つかったからか、透夜の声も弾んでいる。
(ああああああまずいまずいよ! まさか二人にこんな共通点があったなんて……もうどう考えても圧倒的に不利だよあたし……ど、どうにかして挽回しないと……)
「じゃあ一人怪盗ごっことかもやったことあります?」
「そそそそそそれあたしも聞きたいな透夜くん!」
透夜が続けて言った初耳のごっこ遊びに、慌てて絵理が割って入った。ソフィア先輩が彼のことをどう思ってるかは分からないが、これ以上差をつけられてはたまらない。
杏花も透夜に向かって首を激しく縦に振り、聞きたいとアピールしている。
ソフィアはいきなりの大声にびっくりしながらも、気を取り直してふたたび透夜の方に顔を向けた。
「私もその遊びは知らないわ。どんな遊びなの?」
どうやらソフィア先輩も知らないらしい、と絵理は内心ガッツポーズをする。
「えっとですね。部屋中に赤い糸を張り巡らすんですよ」
「うん。それで?」
「その張り巡らした赤い糸をですね、こんな風に避けながら進んでいく遊びです。宝を盗みに入った怪盗が赤外線センサーを避けていくイメージですね」
言葉と共に歩きながら、くぐるようなジェスチャーや体をそらすようなジェスチャーをする透夜。
その姿を見て、女性陣三人は押し黙った。やや引くような目で透夜を見ている。透夜は変なポーズのまま固まった。
「……あれ? ひょっとして先輩もやったことないんですか?」
「……ごめんなさい。さすがにその遊びは私もしたことがないわ……」
申し訳なさそうに言うソフィア。もちろん絵理も杏花も、そんな遊びは見たことも聞いたこともなかった。