042 ソフィアが知らなかったこと
「そういえば、複数のワームを一人で対処できるなんて凄いですね。ソフィア先輩」
すでに倒れていた二体のワームを見ながらそう言ったのは杏花だ。絵理も頷いている。透夜はともかく、二人にはまだできない芸当であろう。
ワームという単語が巨大芋虫のことを指しているとすぐに分かったソフィア。彼女も同じ名前で呼称していたからである。
「ああ、あれはどちらかというと、私の力というよりある武器のおかげよ……ちょっと待っててね」
そういうとソフィアは歩き出す。彼女が歩く方向には地面に置かれている荷物の袋と、なにやらごてごてして複雑そうな機械じかけのものがあった。
ソフィアはそれらを持って透夜たちのところへ戻ってくる。そして機械じかけのアイテムを三人に見せた。
「それ、クロスボウですか?」
アイテムの正体が分かった透夜がそう尋ねる。ソフィアは首肯を返した。
「ええそうよ。しかも矢をあらかじめ複数つがえておくことで連射できるの」
「うわあ、格好いいですね!」
絵理も初めて見た武器に歓声をあげている。
「あの二体のワームはこれを使ってヒット&アウェイで倒したの。あいつらはそこまで速くないからね」
そう言われてみると、元々倒れていたワームの全身には矢が複数突き刺さっているようだ。
「でもあなたたちも凄いじゃない。魔法であいつらをあっさりと倒してしまうなんて」
「……? ソフィア先輩だって魔法を使ってたじゃないですか?」
透夜が訝しげに尋ねた。するとソフィアは恥ずかしさと気まずさが同居した表情を浮かべてややうつむく。
「その……さっき魔法を使う時に偉そうなことを言ったけど、私が使える攻撃の魔法ってあれだけなの……さっきあなたたちが使った魔法は初めて見たわ」
「あ、そうだったんですか」
納得する透夜たち。続いてソフィアは透夜の腰回りを指さした。
「それと気になるんだけど、その腰のベルトから下げているビンの中身のカラフルなものは何? ジュース?」
「え?」
この言葉にはさすがに透夜たち三人も驚いた。
「何って……ポーションですけど……」
「ポーション? あのゲームとかに出てくる?」
「あ、もちろん名前は僕たちが勝手にそうつけただけですが。つまり魔法で作った回復薬です」
「……は?」
「……え?」
目をぱちくりとさせたソフィアの前で、やはり透夜たちも同様の表情をしている。
「み、見せてもらってもいい?」
「は、はい……どうぞ」
透夜がベルトから一本のポーション入りビンを引き抜き、ソフィアに手渡した。
ソフィアの青系色の瞳が、同じような色をしている液体をしげしげと見つめる。
「え、なに。ひょっとして魔法でそんなこともできちゃうわけ……?」
呆然とつぶやくソフィア。
そんなソフィアを前に、絵理は先ほどから気になっていることをおずおずと尋ねる。
「ええっと……先輩もベルトにビンを差してますけど、それは何が入ってるんですか?」
透夜、絵理と同じように、ソフィアもベルトからガラスビンを下げている。見た感じ、ベルトは絵理と同じ四本携帯できるもののようだ。差してあるビンも四本。どれも同じように液体が中を満たしている。
ただ透夜たちと決定的に違うのは、その液体が無色透明ということである。
絵理の問いかけにソフィアは口をもごもごさせた後、顔をそらした。その頬は朱に染まっている。
「た、ただの飲み水よ……」
ソフィアは恥ずかしさとくやしさが入り混じったような表情で、三人にそう答えた。