041 少女の自己紹介。恐れおののく絵理と杏花
「私はソフィア・ユーリエヴナ・セレブリャコワ。あなたたちと同じ見咲ヶ丘高校の二年生よ」
戦いが終わった後、銀髪碧眼の少女はそう自己紹介した。
先ほどまでは呆然自失といった感じでずっと自嘲のつぶやきをしていたが、立ち直ったのか今は表情も声も快活だ。
「両親はロシア人だけど、私は日本で生まれて日本で育ったの。だからこう見えても正真正銘の日本人よ」
彼女の説明で日本人離れした外見に関する疑問はとけた。透夜たちもロシア人の血を引く生徒がいるという話をちらりと聞いたことがあったし、校内で銀髪の生徒を見たような記憶もある。
透夜たちも遅れて自己紹介を行なう。
「僕は浅海透夜。一年生です」
「あたしは透夜くんのクラスメイト、霧島絵理です」
「私も同じくクラスメイトで渡良瀬杏花といいます」
「ええ、よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いしますね……ええっと、セ、セレブ……ニャコワ先輩?」
途中で言葉に詰まり、結局言い間違えた透夜。しかしそういったことには慣れているのか銀髪の少女が小さく笑う。
「セレブリャコワよ。言いづらいでしょうからソフィアでいいわ」
「わかりました。じゃあ、ソフィア先輩」
「ええ。あと私もあなたたちのこと名前で呼ぶわね」
「は、はい」
「ありがとう透夜。絵理と杏花もそういうことでお願いね」
そう言ってソフィアはにっこりと微笑んだ。
(い、いきなりファーストネームで!? あたしも杏花ちゃんも、透夜くんのことを名前で呼ぶようになったのは昨日からなのにぃ……)
表情には出さなかったものの、内心でとても驚愕していた絵理。ちらりと杏花の方を盗み見る。同じく表情は特に動かしていないものの、その瞳はなにやらはげしく動揺しているような光がちらついていた。
ソフィアの首から下は黒を基調とした鎧に覆われている。どことなく生物的な質感とデザインであったが、胸のラインは大きく湾曲しているし、腰回りや太もものあたりは覆っている部分が少なめで、改めて見てみると肌色の部分が目立つ。かなり女性的なフォルムを強調する鎧であった。
その姿から推測するに、胸のサイズも大きめで全体的なスタイルもいい。背は透夜よりは少し低いが、絵理はもちろん杏花よりも高かった。
そして銀髪碧眼と、絵理にも杏花にもない武器を持っている。その笑顔は同性の絵理から見ても、とても魅力的なものに思えた。
(な、なんだか仲間というよりすごい強敵が現れたって感じなんだけど……杏花ちゃんだけでもあたしの手にあまりそうな相手なのに……)
ひとり……いや、杏花も含めるならふたりか。
透夜のクラスメイトである少女たちは、ワームよりも手ごわそうな相手の登場に恐れおののいていた。