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038 ふたつのペンダント

 階段前の広場に戻ってくると予定通り、三本あった通路の真ん中の道へと新たに足を踏み入れた透夜たち。


 通路を奥へと進む三人だったが、歩を進めるうちに耳障りな音を感じるようになっていた。


 はねの生えた虫がぶんぶんと飛びまわるような音である。


 三人は足を止めて顔を見合わせた。


「ねえ、これって……」


「うん……また虫系のモンスターがいるみたいだね」


「虫……」


 絵理はもちろん、杏花もそれを聞いてあからさまに嫌な顔をしていた。


 しかも、その羽音はひとつではないようなのだ。


「でも向こうから近づいてこないな……」


「たしかにそうだね」


「それに音が遠くなることもないですね……」


 同じ場所を飛び回っているのか、虫の羽音らしきものは一定の音量で鳴り続けている。


「しかたない、行ってみよう」


「うん……」


「ええ……」


 意を決して歩きだす透夜。


 絵理と杏花は、気持ち透夜の後ろに隠れるような姿勢でそのあとを追いかけた。


 やがて音が近くも遠くもならない理由が分かった。


 通路の突き当りの左側が鉄格子で覆われており、その中の小さな部屋に巨大な虫が多数閉じ込められていたのである。


 また、その反対側にも鉄格子がはめられており、そちらの部屋の奥には壁にくぼみがあった。そこに台座があってアイテムらしきものが安置されているようだ。


 そしてこの通路の突き当りの壁には、あからさまに押してほしそうな目立つ形のボタンがあった。


「これはあれだよね……押すと左右両方の鉄格子があいて、こっちに閉じ込められているたくさんの虫が襲ってくるんでしょ……」


 絵理は顔をひきつらせながら鉄格子の中で飛び回る巨大な虫の群れを見た。


 絵理が知っているクワガタみたいな虫とは種類も違うようで、まさに巨大な蜂といった外見をしている。もちろん尻の針に毒も持っていそうだ。


 杏花も飛び回るモンスターたちをとても嫌悪感あふれる表情で見ていた。もちろん二人はそこに近づこうともしない。


「大丈夫。こういう時は『雲』の文字を持つ魔法で簡単に対処できるんだ」


 透夜は一人鉄格子の前に立つ。こんな時いつもは『毒』と『雲』を組み合わせた魔法を使っていたが、今回は効きにくそうな相手だし、せっかくなのでこの前覚えたばかりの魔法を行使することにした。


サンダークラウド( 雷 雲 )


 透夜が魔法の文字を描きながら詠唱する。


 するとたちまち鉄格子の向こうに薄暗い雲が現れた。そこから周囲に稲妻がいくつもほとばしる。一撃一撃は虫たちにとって致命傷にはならなかったようなのだが、それが何度も繰り返されるのだ。


 毒の雲も雷の雲も一定時間その場に留まる性質を持っているため、こういった状況にはかなり強い魔法となる。


 雷鳴とともにまばゆい光が何度か明滅し、間もなく雲は消えて静かになる。あとには、多数の巨大虫の死骸が残された。


 絵理も杏花もぽかんとしている。


「……ね?」


 絵理たちの方へ振り向いてにっこりと笑う透夜。これで妨げるものは何もない。


 透夜は突き当りの壁に配置されているボタンを押した。


 すると全員が予測していた通りに左右の鉄格子が上へとあがっていく。


 しかしその瞬間に襲い掛かってくるはずの虫の大群は、もはやすべて床の上で残骸となっている。


 透夜はそちらを一瞥することなく、もう片方の部屋へと入っていった。


「なんか、この罠を仕掛けた人の嘆きが聞こえてきそうだね……」


「そうですね……」


 あまりにもあっさりと解決できてしまったトラップに、絵理が同情するかのような表情を見せた。杏花も同意する。


 ただ、『雲』の文字を持つ魔法がなかったら少々面倒だったのは確かである。今後似たようなことがあったら同様の手段で対処しようと考えた絵理と杏花であった。


 やがて透夜が戻ってきた。その手には何やら装飾品らしきものがふたつ握られている。


「それは?」


「たぶんネックレスじゃないかな? もしくはペンダント?」


 そう言いながら透夜は絵理と杏花にそれらを見せた。


 透夜の言葉の通り、首からかける輪になった部分と、宝石がはめ込まれたペンダントトップとで構成されている。どちらかというとペンダントと呼称されるものであろう。


 ペンダントトップについている大きめの宝石は、一つは青色をしており、水滴をモチーフとしたかのようなデザインだった。もう一つは赤色をしており、こちらは燃え盛る炎のようなデザイン。


「わあ……何これとっても綺麗ね!」


「ええ……素敵です……」


 やはり女の子だからか、美しいアクセサリーを前にしてうっとりとした表情を浮かべる絵理と杏花。


「じゃあ身に着けてみる?」


 透夜は手に持つ首飾りを二人に差し出した。


「え? いいの?」


「うん。やっぱりこういうのは、女の子の方が似合うと思うし」


「あ、ありがとうございます。透夜君」


 にっこりと笑う絵理と杏花。


 喜色満面といった表情でペンダントへと手を伸ばす。


 二人が手に取ったのはそれぞれ別のものだった。どうやら、取りあいにはならずに済んだらしい。


 絵理はさっそくその炎のようなデザインの赤い宝石がついたペンダントを、杏花は水滴のようなデザインの青い宝石がついたペンダントをそれぞれ首からかけた。


 制服のブレザーの上にきらきらと宝石が輝く。


「こんなところに安置されてたんだし、何か特殊な効果があっても不思議じゃないね」


「そうだね。でもそんな効果がなくてもやっぱり嬉しいよ。ありがとう透夜くん!」


 ごきげんの絵理と杏花を前に、透夜も楽しそうに微笑んだのであった。

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