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037 もう、あのモンスターは怖くない

 通路をしばらく進んだ先には一枚の扉があった。透夜たちはその扉から少し離れた場所で足を止める。


 扉の前、床の一部が四角く縁どられていたからだ。その範囲は二人の人間がその上に立ってもすっぽりと収まるほどの面積がある。


 いわゆる床にあるスイッチだが、普通に考えればこのスイッチは目の前の扉を開けるためのものである。ある意味自動ドアみたいなものだ。このダンジョン内でたまに見かけるタイプである。


 踏み出そうとした透夜であったが、何かが這いずるような音をかすかに聞きつけ、動きを止めた。


「……たぶん扉の向こうにワームがいる」


「!?」


 透夜の言葉に絵理は大きく反応した。杏花も絵理を心配そうな瞳で見つめている。


 以前倒したとはいえ、やはり絵理の中にワームに対する苦手意識はある。


「やれる?」


「……うん……大丈夫!」


 しかし透夜の声に絵理は強い口調で答えた。もちろん自分を奮い立たせる意味もある。


 ここは地下六階。ワームと初めて出会ったのは地下四階なのだ。


 今さら臆するわけにはいかない。そもそも自分はあのワームの肉を食べたではないか。


 つまり自分が捕食者で、ワームが被食者なのだ。恐れることはない。


 ……そこまで考えた時、自分が食べた肉がグロテスクな巨大芋虫の身であることを改めて実感し、少し気分が悪くなる絵理であった。


「行こう! 透夜くん!」


「わかった。じゃあ開けるよ」


 透夜は足を踏み出して床スイッチを踏んだ。


 たちまち目の前の扉が上に上がっていく。


 中はやや大きな部屋だったが、予想通りワームがいた。


 向かいの壁沿いをうごめいていたが、扉が開いたことに気付いたのか、透夜たちの方へと向きを変え始める。


 透夜、絵理、杏花は三人とも部屋に入り、それぞれ得物を構えた。


 体長4~5メートルはあろうかという、相変わらず巨大な芋虫型の化け物。


 しかし対峙してみて、絵理はもはやあの時のような恐怖は感じていないことに気付いた。これまでの経験が自分の心をも強くさせているのだろう。さっき考えたように、ワームの肉を食べたこともその一因かもしれない。


「うん! もう怖くないよ!」


 口元に小さな笑みすら浮かべて、絵理は透夜と杏花に宣言した。


 それを聞いた透夜と杏花もまた小さく笑う。


「分かった。じゃあさっさと倒してしまおう!」


「うん!」


 透夜は愛用の片刃刀と盾を構え、絵理と杏花は魔法の準備動作へと入る。


 戦いはあっさりと決着した。


 透夜がひきつけているうちに二人の魔法が完成し、氷の槍と風の刃が芋虫を突き刺し、あるいは切り裂いた。


 それだけで早くも瀕死となっていたワームに、透夜がすかさずとどめの刃を突き立てたのである。


 勝者になった三人はハイタッチをしあう。


 苦手意識を完全に克服できた絵理は特に嬉しげだ。


「えへへ、すごいねあたしたち!」


「ええ、自分が強くなっていることを実感します」


 透夜も二人の言葉に頷く。出会って間もない頃とは比較にならないほどの実力を身につけている。透夜は流れるような動作でいつもの大型ナイフを引き抜いた。


「じゃあ僕が解体している間に、部屋の捜索をお願いしていいかな?」


「うん。いいよ」


「はい。それでは解体の方はお願いしますね」


 透夜がワームの死骸から肉をはぎとっている間、絵理と杏花は手分けして部屋の中を調べた。


 部屋の中は扉の前に同じような床スイッチがあり、やはりそれが扉を開閉させる仕組みとなっていた。他は壁ばかりであり、ここから先に行ける場所はない。


 そして部屋の片隅の瓦礫にまぎれる形で、一本のガラスビンと革製のベルトらしきものが転がっているのを絵理が見つけた。


 ガラスビンはもはや三人にとってポーション容器としておなじみのアレである。


 そして革製のベルトのほうは、このビンを複数携帯するための物らしかった。4本は入りそうだ。一部が切れているものの、リペアの魔法を使えば元通りになりそうである。


 絵理は見つけたそれらを透夜と杏花に示した。


「ベルトもビンも絵理が使っていいですよ」


「いいの?」


 絵理はジャンケンで決めることになるかと思っていたのだが、杏花はあっさりと所有権を絵理に譲った。透夜も頷く。


「僕はもう同じようなベルトをすでにつけてるし、ビンもスロットいっぱいだし」


「ありがとう!」


「でも次に似たようなベルトが見つかったら私がもらいますね?」


「もちろんだよ杏花ちゃん!」


 絵理がリペアの魔法をベルトにかけるとあっさりと破損個所が修復された。


 ブレザーの上から新たにベルトを巻きつけ、手持ちのポーションすべてをそのベルトのスロットに差し込む。先ほど見つけたビンも、すでに自作したマジックポーションの青い液体で満たされている。


 ポーションが入ったビン3本をベルトに差した絵理は、とても誇らしげに自分の姿を見下ろしていた。


 今までは背負い袋のサイドポケットからポーションを取り出す必要があったが、これなら戦っている最中もすぐに引き抜いて飲むことができそうだ。


「じゃあそろそろ出ようか」


「うん」


 大きな勝利と戦果を手に、三人は部屋の外へと出た。

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