032 絵理と杏花、それぞれの気持ち
戻ってきた大広間の壁沿いで軽い昼食と休憩をとった透夜たち。
なお、休憩の際に絵理は透夜から投げナイフの使い方を教えてもらい、しばらく投擲の練習に時間をあてた。
それなりの様になってきた後、再び移動を開始する三人。
この広間に入ってから四つ目の通路の入口を見つけ、そちらへと歩を進める。
ここの通路は三人が横に並ぶには少し狭く、透夜が前に立ち、後ろを絵理と杏花が並んで歩く形となっていた。
何度か折れ曲がる通路を進む透夜たち。
ひたすらに石の壁が続き、ボタンらしきものも扉も存在しない。
「そういえば、誰とも会わないね……」
「……うん」
「……そうですね」
大して変化のない光景に飽きたのか、何気なくその言葉を口にした透夜。
それに対する二人の返事はやや間をあけて返ってきた。
絵理と杏花は当初、自分が元所属していたチームでなければクラスメイトの誰かと出会ったほうがいいと思っていたはずだが、今は心境にかなりの変化が起きていた。
二人はそっと目の前を歩く透夜の後ろ姿を見つめる。
いつの間にか、絵理と杏花はこの現在の状況が好ましいものであると考えるようになっていた。
もし他のクラスメイトの一団と出会ったら、当然のように合流する形となるだろう。もちろんその方が探索も楽にすすむだろうし、命の危険も減るはずではある。
しかしそれでも……。
「……広いところに出るみたいだよ」
言葉と共に透夜が振り向いた。
その時、透夜をじっと見つめていた絵理と杏花は気恥ずかしさとともに顔をそらす。
「? どうしたの?」
「な、なんでもないよ?」
「え、ええ。なんでもありません」
似たようなことを考えていた二人は似たような答えを返す。
透夜はそのことをさほど気にせず、終わりの見えてきた通路をさらに進んだ。そして……。
「あれ?」
透夜は首を傾げた。この場所に見覚えがあったからである。
「また広間に戻ってきてない?」
「そうみたい……」
先ほどまで歩いていた長い通路は、結局広間の中の別の通路とつながっているだけだったようだ。
徒労と言えば徒労だが、逆に二本の通路の探索が一回で終わったとも言える。
ここを起点にし、再び壁に沿って歩くことにした三人。
やがて新たな通路の入口を見つけ、そちらへと向かう。
そしてようやく苦労が報われた形となった。
その通路を少し進んだ先に、地下六階への階段があったのだ。
「どうしよう?」
透夜が振り返って尋ねる。このまま下りるべきか、それともこの階の探索をもう少し続けるか。
「この階を全て見回りたいとは言わないけど、ここの広間からつながる通路は全部見ておきたいかも」
「そうですね……もう少しで回れそうだし心残りと言えば心残りです」
絵理の意見に、杏花が同意する。
「確かに。あと下りる前に一度水の補充も済ませておきたいね」
「それでは、一旦広間に戻って別の道に行ってみましょう」
「うん」
とりあえず次に進むべき道が見つかったのは気分的にありがたい。
透夜たちはやや軽い足取りで来た道を戻っていった。