029 杏花のメイスによる重い一撃
「はっ!」
杏花が気合の声と共にメイスを振り下ろすと、それは眼前の魔物の頭に叩きこまれる。
鈍器の一撃を受けたモンスターはあっさりと地面に倒れた。もはや三人にとってもおなじみのキノコ型モンスター、ファンガスである。
一晩ぐっすりと眠った三人が部屋から出て通路を戻り、大広間に出るとそこにファンガスがいたのである。上の階で見たやつらに比べると一回り大きなサイズだった。
習性なのか透夜たちの方に向かってきたため、昨日手に入れたメイスと盾を手に杏花が前へとでたのだ。
結果はこの通り、杏花の一撃でファンガスはあっさりと絶命していた。
サイズ的に地下四階にいたやつよりは明らかに強そうであったが、そんな相手をたったの一撃で倒した杏花に絵理がはしゃぐ。
「すごいね杏花ちゃん!」
「ありがとうございます。でも私がすごいというより、このメイスが強いみたいですね……私もちょっとびっくりしています」
細腕で振り回したとは思えない効果に、杏花は手に持つ武器をかかげ、しげしげとその姿を見た。左手に持つ盾とセットと思しき美しい装飾の入ったメイス。
ひょっとすると何らかの魔法がかかっているのかもしれない。実戦で試したのはこれが初めてだが、本当に良い拾い物をしたようだ。
「武器だけの力じゃないよ! 杏花ちゃん、もう一人前の戦士って感じだよ!」
「あ、あまり褒めないでください……恥ずかしいですから……」
杏花は照れながらメイスと盾を収めた。
杏花は謙遜していたものの、透夜の目から見ても杏花の戦いの腕そのものはちゃんとあがっているようだ。そしてそれは絵理も同様である。特に最近の絵理はファンガス相手にすら震えていた頃から比べると雲泥の差だ。
ただ、やはり二人とも制服姿のままというのは少し不安が残る。
その不安が透夜から言葉となって発せられた。
「何か、いい鎧でも見つかればいいんだけどね」
「浅海くんみたいに?」
「うん」
今の透夜は革を主体とした鎧を身に着けている。ところどころは金属で覆われている上に、魔法でもかかっているのか革の部分すらちょっとやそっとの攻撃なら軽く防いでくれる。
「たしかにこの格好で武器や盾を構えるって、今さらですけどすごく変ですよね」
杏花が自分の姿を見下ろして自嘲気味に言った。
制服のブレザーを着てそこに大きめのベルトを巻き、武器やら盾やらを下げて、さらに荷物入れの袋を背負ったりしているのである。見た人すべてが明らかにおかしい格好だと思うだろう。
「まあこれから先の探索で何か見つけられることを祈るしかないか……」
「そうですね……」
透夜の言葉に杏花が同意し、絵理も頷いた。
今はあるものでやりくりするしかないのである。もちろん食料に関しても。
流れるような動作でナイフを抜き、床に伏すファンガスから数人分の肉を確保する透夜。
絵理も杏花もその姿に何も言うことはなかった。慣れとは恐ろしいものである。