028 新たに三つの魔法を会得する透夜たち
食事のあとの休憩時間を挟んでから、三人は魔法の本とにらめっこをしていた。
もちろん絵理と杏花が、マジックミサイルよりも強い魔法を覚えるためである。透夜としても、それが有用な魔法なら自分が使えるようになっておいて損はない。
「ファイアーボールは……まだ難しいかな?」
まずは得意の火球魔法を二人に提案した透夜だったが、言葉の終わりで自信なさげに首をひねった。
ファイアーボールはマジックミサイルに比べてはるか高位の魔法であり、発動させるのが難しく、消費魔力も多い。また、三文字で構成されているために文字を描く動作と詠唱にも時間がかかる。
今の絵理と杏花が普段使いとするにはまだハードルが高いと思われる。戦いの最中に魔法の発動に失敗し、さらに魔力だけを失っては目も当てられない。
「んー……難しいっていうのもあるけど、ファイアーボールってちょっと怖いんだよね……」
ファイアーボールによって透夜が何度も死にかけたという話を聞かされている絵理は、あまりそれを撃ちたいとは思っていなかった。一応、使われている魔法文字のつづりや発音はすでに暗記していたが。
「あの威力は魅力的ですけどね……」
杏花も絵理の意見に相槌をうつ。着弾と共に破裂し、周囲をまとめて吹き飛ばすあの破壊力は絶大的だが、やはり自分で使うとなると恐怖感を伴う。
「じゃあ、二文字の魔法の中からいいのを探してみようか?」
「うん」
「浅海君が火の魔法を得意とするわけですし、私たちはまずそれ以外の魔法を覚えてみるのはどうでしょう?」
「いいね、それ!」
はしゃぐ絵理。透夜も杏花の意見にうなずいた。
「確かに。ファイアーボールを撃ってもあまり効いてなさそうな敵と戦ったこともあるし、そのほうが役割分担にもなって良さそうだね」
「そいつはどうやって倒したの?」
「魔法で毒の雲を作って弱らせ、とどめは剣でさした」
「……その毒の雲って、以前言ってた自分が死にかけたやつだよね……?」
「そのころには慣れてたからもうあんなミスはしなかったよ」
絵理と透夜のやり取りを聞いていた杏花が、興味深そうに尋ねる。
「雲を生むってことは広範囲に効果を及ぼせるわけですよね? じゃあそれ系もちょっと見てみたいです」
「じゃあひとつは雲の文字を使う魔法にしようか」
透夜、絵理、杏花は三人で魔法の書を吟味し、難しく書かれている構文に時には頭を悩ませながらも、ようやくいくつかの魔法文字とその組み合わせによって生まれる魔法をピックアップする。
やがて三人が見出したのは、
『雷』の文字と『雲』の文字を組み合わせる魔法。
『氷』の文字と『槍』の文字を組み合わせる魔法。
『風』の文字と『切』の文字を組み合わせる魔法。
この三種類であった。
「雷と雲ならサンダークラウドって名前にしようかな?」
「じゃあ氷と槍はアイスジャベリンね」
「風と切ならウィンドカッターってところでしょうか?」
それぞれがイメージしやすくなるような魔法名を名づけ、特に反対意見もでなかったのでそれを三人の共通事項とした。
魔法文字の形と発音を覚えた三人は、それぞれ部屋の中の空いたスペースを使って魔法の試し撃ちを行なう。もちろん控えめな魔力で。
「サンダークラウド!」
まずは透夜がサンダークラウドの魔法を使う。彼が描いた魔法の文字がひときわ輝いて消滅すると共に、空間に薄暗い雲が浮かび、そこから周囲の一定距離にしばらくの時間、細い稲妻が何度か繰り出された。稲妻ひとつひとつの威力はさほどでもないかもしれないが、広範囲に効果を及ぼす魔法として有用そうだ。
「アイスジャベリン!」
続いて絵理が、離れた壁に向かってアイスジャベリンの魔法を解き放った。
マジックミサイルの矢よりも大きく鋭い氷の槍が、投げ槍のように勢いよく飛び出す。それは石壁に突き刺さり、美しい結晶となって砕けた。少なめの魔力しか注いでいなかったが、その威力は明らかにマジックミサイルのそれよりも高そうであった。
「ウィンドカッター!」
最後に杏花が自ら名付けた魔法、ウィンドカッターを壁に向かって撃ちだす。
薄緑色の風が目に見える刃となって生まれ、瞬く間に石壁をえぐった。魔法の刃が消え去った後、その鋭利さを示す傷跡が石壁にくっきりと残されている。
「どれも凄く便利そうだね」
「うん! 戦いでもっと役に立てるようになりそうだよ!」
「これならさっきのスライムみたいなモンスターにもより効きそうですね」
透夜、絵理、杏花の三人はマジックポーションも飲みながら先ほどの三種類の魔法をすべて一通り使い、魔法の文字と詠唱の発音を体に覚えさせた。
それが終わると消費したマジックポーションを再び作り、あとは各々武器の素振りや魔法の練習をして過ごす。特に杏花は初めて扱うメイスを使って念入りに鍛錬をしておいた。
眠くなってくるとそれぞれ寝具を準備し、やがて夢の世界へと旅立っていった。