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027 絵理と杏花、ついにワームの肉を食す

 大広間に戻ってきた三人はふたたび右手側の壁沿いにすすみ、あらたな別の通路へと入っていった。


 やはり同じように何度か道を折れた後、今度は突き当りに一枚の扉を発見した。扉の横には四角いボタンらしきものがついている。このダンジョンにおいてよく見かける開閉式の扉だろう。材質は金属でできており、一部は鉄格子状となっている。


 扉は上にせりあがって開くタイプ、左右に広がって開くタイプをそれぞれ見たことがあるが、これは上へ開くもののようだ。


 透夜たちは小さい鉄格子越しに中を覗き込み、さらに聞き耳を立てた。扉を開けた先にモンスターがいることはよく見かける光景だったからだ。幸い、視界に映る範囲には何もいないし変な音も聞こえない。


「じゃあ開けるね?」


 確認する透夜。うなずく絵理と杏花。念のため二人には少し離れてもらっている。透夜が横のボタンを押すとカチ、という音がした。透夜も万が一に備えて開く扉から距離をとった。


 きしむような重い音をたてて上に開いていく扉。


 特に異変が起きていないこともあり、透夜は開いた扉の向こうへと足を踏み入れる。


 中は先ほどメイスと盾を見つけた部屋よりもかなり大きい。そして部屋の一画に水が噴き出る泉があるのを見て、透夜は笑みを浮かべた。


「ここで休憩が取れそうだよ。水場もある」


 部屋の外で待っている二人にそう伝えると、絵理も杏花も笑顔になる。地下五階に下りる少し前に昼休憩をとって以降、まともな休息はとっていなかったからだ。時間的にも疲労を取る意味でも、今日はここで就寝することになるだろう。


 絵理と杏花も透夜に続いて部屋の中に入る。


 部屋の中にも扉のボタンがあり、それを押すと音を立てて扉がしまった。安全面でもかなり重宝しそうな部屋だ。念のため、透夜は魔法で扉に鍵をかけておくことにする。


 三人は泉の水で喉を潤し、水袋にも水を補給すると、車座になって座った。


 その中央に透夜がファイアーフロアの魔法を用いる。たちまち石の床に炎が赤々と舞い踊った。


「さて、じゃあ食事の準備をするね」


「……うん」


「……ええ」


 透夜が言った食事の準備とは、もちろん地下四階の最後で彼らがゲットしてきたワームの肉を焼くということである。


 透夜は手慣れた様子でいつものように鉄串にワームの肉を刺していく。その肉の色はあまり食欲をそそるものではなかった。


「大丈夫、まずくないから……というか慣れてくるとけっこう美味しく感じてくる」


「……あたしたちがしてるのは味の心配じゃなくてね……」


「そうですね……もちろん美味しいならそれに越したことはないですけど……」


 しかしそんな二人に対し、透夜はにこやかに肉を刺し終えた鉄串を差し出すばかりだ。悪魔のような一言を沿えて。


「まあまあ、もうすでにファンガスの肉は食べちゃったんだし」


「うっ……」


「……」


 透夜の言う通り、すでにモンスターであるファンガスの肉を食べてしまっている二人。人はこうやって段階的に堕ちていくのだということを理解した絵理と杏花なのであった。


 結局、差し出された鉄串を受け取って、透夜にならい火の中に肉を差し出す。


 しばらくすると肉が焼ける匂いが漂ってくるが、空腹も手伝ってその匂いがとても美味しそうに感じるというのが、二人にとってショッキングな出来事であった。


「そろそろ大丈夫だよ。召し上がれ」


「うう……い、いただきます……」


「火を通せばちゃんと食べられる……火を通せばちゃんと食べられる……」


 透夜は真っ先にかぶりつき、やがて覚悟を決めた絵理と杏花も肉を少しだけかじる。


 どのようなえぐみが待っているのかと恐れていた二人だったが、予想外の味に目を見開いた。


「うそ……意外といける?」


「そうですね……悪くないかも」


「でしょ?」


 してやったりという顔の透夜。


 なんだか釈然としない表情を浮かべながらも、二人はお腹を満たすためにワームの肉をさらに食べ、やがて渡された肉すべてを胃袋に収めてしまった。


 食事を終えた絵理と杏花は膝をかかえた体育座りをし、どこか遠くを見るような目をしている。


「ああ……なんだろうこの気持ち……」


「あきらめ……でしょうか……もう戻れないっていう……」


「うん……ワームの肉まで……食べちゃうなんてね……」


 ぼそぼそとつぶやく二人の声を聞いた透夜がやわらかい笑みを浮かべた。


「ここより下の階で見かけた大きなネズミ型モンスターの肉はとても美味しかったよ。ワームの肉で満足できないならいつかそれも食べさせてあげたいな」


「……違うから! 味について悩んでたわけじゃないから!」


 やはりどこかずれている透夜に、そう叫ぶしかない絵理であった。

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