025 巨大コウモリの群れを蹴散らす
「はっ!」
透夜が気を吐き、片刃刀を一閃する。
横に払われた斬撃は敵モンスターの一体を見事に斬って捨てていた。
今、透夜たちの前に立ちふさがっているのは一言でいえば巨大なコウモリである。翼を広げると横に2メートルくらいはありそうであった。
透夜がすでに見たことのある敵であり、彼がジャイアントバットと呼称しているモンスターだ。
その群れが透夜たちの歩く通路の向こうから飛来してきたのである。
そのことに一番早く気付いた透夜がすばやくファイアーボールを唱え、敵の群れに撃ちこんだ。
おかげで大半は地に落ちたが、臆せず向かってくる後続との戦いは三人を巻き込むものとなった。
数もそれなりに多い上に空を飛んでいるため、さすがに透夜一人で敵すべてを抑えるのは無理だったのだ。
「マジックミサイル!」
「せいっ!」
しかし、絵理が魔法の矢を放ち、後ろに抜けてきた敵を杏花が剣で応戦する。
さきほど戦ったワームと比べれば、正直言って見た目の怖さはそれほどでもない。
耐久力も大したことはなく、絵理の魔法、杏花の剣であっさりと地上に落ちていく。
もちろんジャイアントバットが弱いというより、二人の戦闘力が上がっているということもあるのだろう。
透夜の言う通り、積んだ経験が皆の能力を向上させているのだ。
ややあって戦いは終わり、辺りには巨大コウモリの死骸だけが散らばった。
「二人とも怪我はない?」
「うん。平気」
「私も大丈夫です」
絵理、杏花の元気そうな声を聞いて透夜もほっと安堵の息を吐く。
「良かった。いきなりだったからちょっとびっくりしたよ」
「たしかにね。でも浅海くんはこいつらと戦ったことあるんだよね?」
「うん。何回かね。ちなみにジャイアントバットって呼んでる。僕が知る限り、特殊な能力とかはないみたい。今回みたいに群れで動いていることが多いから、囲まれるとちょっと厄介だけど」
そう言いながら、透夜はあたりを見下ろす。石の床に倒れ伏すコウモリたちを見つめる透夜に、杏花が恐る恐る疑問の言葉を口にした。
「まさか、このコウモリも食べるつもりなんですか?」
「うーん……ジャイアントバットは、正直言ってあまり美味しそうには見えないんだよね……」
ワームは美味しそうに見えたのだろうか、という疑問が絵理と杏花どちらの脳裏にもよぎったが、そのことを尋ねるのは二人ともやめておいた。
「じゃあ行こうか。早めに休めそうな場所を見つけておきたい」
「そうだね」
「分かりました」
透夜たちは再び通路を歩き出す。
やがて道は広い場所につながった。石壁に囲まれた空間が遠くまで広がっている。それらの壁にぽつぽつと通路らしき穴が開いているのが、ここからでもいくつか見える。
辺りにはモンスターが動いている気配もなければその死骸もない。そして人の姿もなかった。
「どうしよう……やっぱり右手側に沿って歩いてみる?」
「そうですね……道しるべも特にありませんし」
「あたしもそれでいいよ」
とりあえずの方針が決まった透夜たちは、右手側の壁に沿って歩きだした。