021 杏花によって生まれる魔法の光
「それでは、魔法について教えるよ」
「よろしくお願いします」
ファンガスの肉を食べてお腹も膨れ、少しゆったりとした時間を過ごした後、透夜は杏花に魔法の講義を始めた。
とはいえ内容は以前、絵理に対してやったこととほとんど同じである。
自分が拾った魔法の本のこと。それに書かれていた内容についての説明から始まり、特殊な文字の組み合わせによって魔法の力が発現できることを伝える。
魔法にはいろいろな種類があり、敵を攻撃する手段になったり様々なポーションを作れることも教えた。杏花は目を輝かせて透夜の講義に集中している。
一通りの説明が終わると、さっそく実践の時間になった。
透夜が杏花の目の前で魔法を使って見せ、それを参考にして杏花が魔法を行使するための動作を模倣する。使う魔法は絵理の時と同じくライトである。
透夜に説明された通り、魔法が発現している姿をイメージし、精神を集中する杏花。やがて指を宙で動かし、その文字の音を口で発する。
最初はさすがに杏花も失敗したものの、三度目の挑戦において、ついにその指先が魔法の文字を間違いなく描いた。
「ライト」
文字の発音も透夜が聞いて全く問題ない。
やがて宙からやわらかい光があふれた。杏花も初めての魔法に成功したのである。そばで静かに見守っていた絵理がたちまちはしゃいだ。
「やったね! 杏花ちゃん、魔法がうまくいったんだよ!」
「……ほ、本当に私がやったんですか……?」
未だに信じられないような表情をしている杏花に、透夜も力強くうなずいた。
「うん、そうだよ。おめでとう渡良瀬さん」
「そ、そうなんですか……ありがとうございます浅海君、絵理……」
杏花もかつての絵理のように魔法を行使した影響でぐったりしている。体内の魔力を使い果たしたのだ。
透夜を含め、最初は誰でもこんな感じである。でも魔法をずっと使い続ければ、いつか絵理が言ったように筋トレで筋肉が鍛えられるかのごとく、魔法を発動するのに使う体内の魔力量も上がっていくのだ。
実際、最初はライトを二回使うだけで疲労困憊していた絵理も、今は簡単な魔法なら十回使ってもまだ余力があるほどになっている。
「今日は、ここまでにしようか」
とはいえ初日からあまり無理をさせるのも悪いかとそんな言葉をかけた透夜に、杏花は強い意志を持ってぐっと面をあげ、透夜を見つめた。
「その……さっき浅海君が言っていたマジックポーション、いただけませんか?」
「いいけど……まだ特訓をするってこと?」
「……今日中に……クレンジングの魔法を使えるようになりたいです……」