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019 透夜と杏花を見ながら色々と思い悩む絵理

 通路に散らばっていた杏花の荷物をすべて回収し終えた透夜たち。


 今、透夜たち三人は、透夜が拠点のひとつと考えている場所に向かっている。


 道中、杏花は「火を通せばちゃんと食べられる……火を通せばちゃんと食べられる……」と念仏のように唱えていたが、今は落ち着きを取り戻したようで透夜と談笑しながら歩いている。


 そして透夜、杏花の二人の後を少し遅れて絵理は歩いていた。


 絵理の視線は前を歩く透夜と杏花の間を行ったり来たりしている。


 杏花は絵理の目から見ても美人だ。クラスで、いや、学年で一番人気があるというのもうなずける。


 そんな彼女を透夜がどう思っているのか、そのことがなんだか気になって仕方ないのである。


 実は、透夜が杏花をあの拠点の場所に連れて行くと発言した時も胸がチクリとした。


 あの時理由は分からなかったが、今なら分かる。きっと、透夜と二人で過ごした場所に他の人が来るのが嫌なのだ。


 つまり、自分は焼き餅をやいているということなのだろう。


 透夜のことが好きなのかはまだわからないけれど、気になる存在になっているのは間違いない。


 だから透夜が杏花と和やかに話していると、心がささくれだってしまうのであろう。


 絵理は透夜とは今のクラスに入るまで接点はなかったが、杏花とは中学の時にも同じクラスだったことが何度かあり、友人と呼べる関係だ。


 だからこそ多少は杏花のことを知っているわけだが、絵理は彼女に容姿はもちろん身長も胸のサイズも運動能力もテストの成績も負けている。つまり全敗である。


 ちなみに絵理も容姿は可愛らしいほうである。ただ、ほんのちょっと地味なだけだ。


 そんな地味な少女が自分たちを見ていることに気付いているのかいないのか、透夜と杏花は相変わらずにこやかに会話をしていた。


 むうう……と唇を尖らせる絵理であったが、ふとあることを思い出して自分の中に元気があふれてくるのを感じる。


 そう、それはこのダンジョンに入ってからの透夜と過ごした時間だ。


 もちろんわずかな時間ではあったが、その間に自分だけが知ることになった透夜という人物の一面。そう、杏花にはない自分だけのアドバンテージである。


「……それに子どもの頃はよく一人ダンジョンごっこで遊んだりしてたし」


 ――ってそれ話しちゃうのおおおおおおおおおおおおおお!?


 絵理は心の中で絶叫した。


 自分だけが知っていたはずの透夜に関する知識のひとつが、今あっさりと目の前の杏花にも伝えられていた。他ならぬ本人の口から。杏花はあの時の絵理のように驚き、その話の続きに耳を傾けている。


 ――ああ……あたしだけが知るはずのことが……アドバンテージがあ……。


 先ほど元気になったのもどこへやら、ふたたび沈んだ表情になった絵理はとぼとぼと二人の後を歩き続けた。

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