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102/104

102 終わる世界

「ま、まさかここまでやるとはね……」


 魔力の大半を使い果たしたのか、石の床に両手をつくマキナ。


 怪物の姿から戻ったマキナは、先ほどまでと同じ赤と黒二色のドレスに身を包んでいる。


 もはや、尊大な表情はどこにもない。


 マリアが、はいつくばる自分の妹の前に立つ。その左右の手には、ホーリーウェポンの輝きを帯びた剣がそれぞれ握られている。


 しかし、それでもマキナは胸を張るかのように上半身を起こし、嘲るような笑みを浮かべた。


「万が一に備えて、仕掛けをうっておいてよかったわ」


 マキナは目線を向けた。自分と似た容姿を持つ者へと。そしてその紫の瞳が妖しく光る。


「あそびはここまでよ……やっちゃえお姉さま!」


 ……え?


 その言葉に、透夜たちが一瞬固まる。


 動けない透夜たちとは正反対に、マキナの正面に立つマリアがゆっくりと向き直った。透夜たちの方へと。


「マ、マリア?」


 呆然としたソーニャの声に、マリアは答えない。人形にふさわしい無機質な瞳で彼女を見た。左右に持つ剣を構え……。


 マリアは目にも止まらぬ速さで動き、その剣で刺し貫いた。


 自分の妹、マキナを。


 主人であるはずの自分を貫いた姉の姿をした人形を、今度はマキナが呆然とした表情で見上げている。


「そんな……アタシが作ったのに……なんでアタシの言うことを聞かないの……」


 その言葉に、先ほどから何も言わなかったマリアがようやく口を開く。


「それは、私がお前の姉だからだ。マキナ……」


 聖なる光を宿す剣に刺し貫かれたマキナの体から、青白いオーラがだんだんと薄れていく。


「アタシがいなくなったら……アンタだって……もう存在できなくなるのよ……」


 何かを求めるように、マリアへと手を伸ばすマキナ。自分を見つめる紫の瞳を、マリアは同じ色の瞳で正面から見返した。


「それでも構わない……これでやっと一緒に眠れるな……」


 マリアのその言葉を聞いて間もなく、マキナはついにすべての力を失い、まぶたを閉じた。マリアは剣を引き抜き、自分の妹を優しく抱きしめる。


 その刹那、ダンジョンが大きく揺れた。同時に、地響きのような音がし始める。


 創造主であるマキナと共に、このダンジョンもその存在を無に帰そうとしているのだ。


 揺れ続ける中、転ばないようにするのが精一杯の透夜たちへ、涼やかな声が届いた。


「トウヤ、エリ、キョウカ、ソーニャ。お別れだ。お前たちと共に戦えたこと、誇りに思う」


 マリアは透夜たちの方へと振り向く。寂しそうに微笑むその瞳に、一粒の涙が浮かんでいたように見えたのは透夜の錯覚だろうか。


 しかし、揺れも地響きもどんどんひどくなっている。もう何かを喋る余裕もマリアのもとへ近づく手段もない。透夜たちは手にしていた武器も取り落とす。


 やがて、すべてを白く塗りつぶすような光が部屋の中にあふれた。


 透夜は何か求めるように、隣に立つ少女へと手を伸ばした。透夜の手がその少女の手をぎゅっと握る。


 その少女も、手から伝わってくる想いに応えるように透夜の手を握り返した。


 そして……透夜たちの意識は途絶えた。

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