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101 最終決戦

ホーリーウェポン( 聖 与 )!」


 透夜たちはまずホーリーウェポンの魔法を使用する。透夜、ソーニャが自分自身に。絵理がマリアに。


 それぞれの剣がたちまち聖なる白い輝きを帯びた。


 怪物と化したマキナに対して聖なる力の効果があるかは不明だが、ゴーストやデュラハン、そして少女の姿のマキナが放っていたあの青白い光がその体を覆っていたからである。


プロテクトファイアー( 護魔火 )!」


火魔法への守護を( 護魔火 )!」


 そして杏花、マリアの二人が火への防護結界を一帯へと張る。


 マキナが変化した巨大な怪物の各部位にはフレイムハウンドの頭がいくつも生えていた。そこから火が吐き出されてもおかしくない。


 怪物の全身に生えている触手のようなものはワームと同じ形をしており、牙ももちろん備わっている。その触手が透夜、ソーニャへと振るわれた。二人はその攻撃を鮮やかに回避する。


 その時、透夜、ソーニャ、マリアの三人に連続でマジックシールドの魔法がかかった。


 絵理が持っている魔法の杖を使って短時間でこなしたのだ。もうここで杖の魔力が尽きてもかまわない。


 援護に感謝しつつ、透夜はアジリティポーションを、ソーニャはストレングスポーションを引き抜き、飲み干した。たちまち二人の体がそれぞれ強化される。透夜は素早さを活かして敵に肉薄した。


 透夜、ソーニャはそれぞれ目の前の怪物の一部を斬りつける。透夜の一刀はフレイムハウンドの頭をひとつ叩きつぶし、ソーニャの剣は触手を一本胴体から断ち切った。


 マキナが変化した怪物はたしかに恐ろしい。しかし、あのレッドドラゴン相手の恐怖感に比べれば、いくぶんマシだった。


 透夜とソーニャはさらに剣を振るい、新たな斬撃をその巨体へと刻み付ける。


 しかし二人の攻撃は怪物にとって大したことはないのか、特に動じる様子もない。


「アハハハハッ! その程度なの!? ぜんぜん効かないわよ!」


 どこからともなくマキナの声が聞こえる。


 それと同時に、いくつものフレイムハウンドの頭が透夜とソーニャにそれぞれ火の息を吐きかける。二人は先ほど杏花とマリアが作り出した火を防ぐ結界の中に入り、迫る火炎からその身を守った。


アイスジャベリン( 氷 槍 )!」


ウィンドカッター( 風 切 )!」


 絵理と杏花がほぼ同時に攻撃魔法を撃ちこんだ。


 一本の氷の槍がフレイムハウンドの吐く火ごとその頭を串刺しにし、緑の風の刃が生える触手を一本切り飛ばす。『聖』の力を持たない魔法も一定の効果を発揮しているようだ。


 マリアは怪物の側へと駆け寄り、左右の剣を躍らせてその肉体を切り刻む。


 五人が繰り出した攻撃は効果をあげているものの、怪物の巨体からするとまだまだほんの一部を撃破しただけにすぎない。マキナが笑い、それに同調するように怪物から生える魔物たちの頭が吠え、伸びる手や触手や脚がわなないた。


 ポイズントードの頭部を模した部分が透夜の方へ向くと、その口が開いて毒の舌先を伸ばした。透夜はそれを回避しつつ距離を取る。そして剣を収めると宙に素早く魔法の文字を描く。


ファイアーボール( 爆火球 )!」


 透夜の放った得意のファイアーボールが怪物の側面に着弾する。大きな爆発がさきほどのカエルの頭ごとその周囲を吹き飛ばす。


「チッ……! やるわね!」


 想定外の威力だったのか、不満を滲ませたマキナの声が響いた。果たしてマキナの本体とも言える部分はどこなのか。今は、とにかく目に見える部分を叩くことしか思いつかない。


 怪物の側面の一部が口のようにぱっくりと開いた。そこから翅音を響かせて新たな魔物が飛び出してくる。巨大な蜂の姿をしたモンスターだ。尾の針を突き刺そうと透夜へ迫る。


 そこに数本の光が走り、頭や胴を穿たれた虫はたちまち落下する。絵理によって放たれた投げナイフだ。


 残る大きな虫はふたたび剣を抜いた透夜がすべて斬り捨てた。胴体も翅もバラバラになって舞い散る。


「はああああああああああっ!」


 ソーニャが気迫と共に剣を一閃させた。うなりをあげるのは白い輝きをまとった黒い刃。


 これまでで一番大きな裂傷が怪物へと刻まれた。さまざまな肉片、および体液が飛び散る。


 そこに迫るワームの口をした触手。しかしマリアが側に駆け寄って左右の白刃を振るった。聖なる力を帯びた刃がそれを断つ。ソーニャは目礼でマリアに応え、自分はふたたびその剣を大振りする。ストレングスポーションによって強化された膂力により、一太刀で多くの触手を切りはらう。


「ああああああうっとうしい……! うっとうしいわよアンタたち!!」


 心なしか、叫ぶマキナの声の力は最初よりも弱くなっているように思える。また、嘲りより不快といった調子が多く感じられるようになっていた。


ファイアージャベリン( 火 槍 )!」


サンダージャベリン( 雷 槍 )!」


 絵理と杏花がひたすらに魔法を放つ。ただただこの戦いを終わらせるために。


 あのレッドドラゴン戦で、後方から撃ちだされた光の矢の流星群を思い出す。


 敗北を覚悟していたあの時、振り向いた先にかつての仲間がいた。


 そしてすぐに分断され、謝罪の言葉を投げかけられた。


 あの場所に立ってドラゴンに立ち向かうことも、そして自分の過ちを認めて皆の前で頭を下げることも、果たしてどれだけ勇気がいることだろう。


 もう、彼らに対して思うところは何もなかった。


 マキナを倒し、元の世界へと帰るのだ。クラスメイトたちと一緒に。


 絵理と杏花はさらに魔力を練り上げ、火、雷、氷、風、聖、それぞれの魔法で怪物を狙い撃つ。


 透夜、ソーニャ、マリアも自分の剣でただただ目の前に生える魔物の頭を、伸びる手や脚を、食いつこうとする触手を散々に斬りはらう。


「アンタらあああああああああ! いい加減にしなさいよおおおおおおおおおっ!!」


 子どもじみた叫び声が部屋中に響いた。


 それと同時に、残る怪物の頭はそれぞれ火を吐き、毒の舌先を繰り出し、触手は生えそろった牙を突き立てようと襲い掛かる。


 しかしそれらは透夜たちにとってただの悪あがきとしか映らなかった。


 迫る悪意をかいくぐり、透夜たちは醜悪な怪物の各部位をひとつひとつ斬り裂いた。そこに魔法も降り注ぐ。


「ああああああああああああああっ……!!」


 やがてマキナの大きな声が玉座の間を揺るがした。


 それとほぼ同時に、もはやその巨体の大半を失っていた怪物がゆっくりと崩れて落ちていく。赤黒い粘液となって床に広がり……やがて消滅した。たった一人の少女、マキナを残して。

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