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100 地下十二階。玉座に腰掛けるマキナ

 翌朝。


 日課のクレンジングをそれぞれ自分自身に用いたあと、水場で喉を潤し、水袋に飲み水を補給した透夜たち。


 昨日の戦いで空になったガラスビンは、いずれも各種ポーションが新たに中を満たしている。


 透夜は仲間を振り返った。絵理、杏花、ソーニャ、マリアは何も言わずに頷く。


 五人はついに足を踏み入れる。


 マキナが待つと言っていた、地下十二階へ続く階段へと。


 長い階段を下りた先はやはり石の通路が続いていた。もはや、脇道もない。


 ところどころには女王を守るように、様々な色の鎧をまとう騎士たちが待ち構えていた。


 透夜たちはそれらをあっさり蹴散らしながら歩き続ける。


 進んだ先に、やがて一枚の大扉があった。この石造りのダンジョンで滅多に見かけない、重厚かつ複雑な意匠がほどこされた扉。


 それは、まるで透夜たちを待っていたかのように、ゆっくりと開きだした。五人は導かれるように足を踏み入れる。


 大きな部屋の内部は途中から石の階段となっており、一番高いところに玉座のようなものがあった。しかし、その玉座はさまざまな白骨で作られていた。


 骨で出来た醜悪な玉座に、赤と黒の二色のドレスをまとう可憐な少女――マキナンナが頬杖をついて腰掛けていた。


「ようこそ。最終決戦の場へ」


 マキナは笑みをたたえて、室内に足を踏み入れた透夜たちを見下ろした。その全身からは青白いオーラが放たれている。


「今までいくつもダンジョンを造ってきたけど、アンタたちがはじめてよ。アタシのところにまでたどり着いたの」


 心底感心したという風情でマキナは続ける。透夜たちは何も言わずにその口上を聞いていた。


「たまにいい線いってる連中もいたけど、そんな奴らもあのドラゴンを見たら泡を食って逃げていったわ。そのたびに絶望してドラゴンの炎に焼かれるお姉さまの姿、いつ見ても滑稽だったわ」


 マリアへちらりと視線を向けてひとしきり笑った後、マキナは可愛らしく小首をかしげる。


「今回はちょっと簡単にしすぎちゃったかな? でも少しくらい刺激がないと飽きちゃうもんね」


 ただ一人しゃべり続けるマキナに向かい、マリアが一歩、足を踏み出した。その顔は楽しそうな妹と違い、苦渋に満ちている。


「まだ気が済まないのか……この国の民を皆殺しにしておいて、他の世界の住民まで巻き添えにして」


「気が済む? 気が済むなんてことあるわけないじゃない!! 王族なんかに生まれついたせいでアタシはやりたいこともほとんど出来ないまま死んだのよ!!」


 先ほどまでの笑みは一瞬で霧散し、顔に怒りを貼り付けて、マキナは立ち上がる。


「アタシが生け贄に捧げられた後、アイツらの声が聞こえてきたわ。これでこの国は安泰だって……!」


 まるでそう言った連中がそこにいるかのように、マキナは宙を睨みつける。


「だから戻ってきて、同じ目にあわせてやったのよ! アタシを、アタシの国を満足させるための生け贄にね……!!」


 吐き捨てると、マキナは改めて自分の姉を、透夜たちを見下ろした。


「ここまで来たご褒美として、アタシが直々に相手してあげるわ。光栄に思いなさい」


 ふたたび笑顔になったマキナ。透夜たちはそれぞれ自分の得物を構えた。


「それらしい姿になってあげる……」


 透夜たちを睥睨しながら、マキナは一歩一歩、石段を降り始める。それとともに、マキナの全身が少しずつ変化していった。ごぼり……という音をたてて、マキナの体がきしみ、膨れ上がる。


 階段をすべて降りた時には、もうマキナという少女の姿はどこにも見当たらなかった。


 ファンガス、ワーム、ポイズントード、フレイムハウンド……。


 これまで透夜たちが見てきた様々な魔物がより集まって生まれたような、巨大で怪奇な塊が部屋の大半を埋め尽くしている。


「さあ……もっともっとアタシを楽しませてよ!!」


 おぞましい怪物の内から、マキナと思しき声が轟いた。

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