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001 見捨てられた絵理、助ける透夜

「きゃあああああああああああっ!!」


 まだあどけなさが残る黒髪の少女――霧島きりしま絵理えりは悲鳴をあげると共に、勢いよく石の床を転がった。


 彼女の側にあった木の扉が、いきなり大きな力で吹き飛ばされたのである。その衝撃に巻き込まれる形となったのだ。


 しかしその悲鳴よりも大きな叫び声が、あたりから続々と響き渡った。


「うわあああああああああああああーーーーーーーーーっ!!」


「な、なんなのあの化け物!?」


「で、でかい芋虫だっ!」


 口々に叫ぶのは霧島絵理と同年代の少年少女たちであった。


 彼ら彼女らはその全身にそれぞれ学校のものらしい制服を身に着けたり、もしくは時代がかった鎧を身に着けたりとばらばらの装いであった。体には大きめの荷物袋や水袋などを背負いあるいはくくりつけ、さらには剣をベルトから下げている。


 そういった道具だけを見るなら、彼らはまるで物語にでてくる冒険者のような格好である。しかし、その姿はあまりにも堂に入っていないように思われた。今も、突然現れた異形のモンスターに対して腰が引けている。


 巨大な芋虫のような化け物は、先ほど吹き飛んだ木の扉の跡からずるずると這い出てくる。しかも一匹だけでなく、後からさらに二匹、同じような化け物が床を這って現れた。体長だけで4~5メートルはある。その全てが派手な色彩の体表を持ち、巨大な丸い口には長い牙がびっしりと生えていた。


「こ、こっちに来るよっ!!」


「に、逃げろっ!!」


 彼らの心に戦おうなどという気持ちはわずかにも湧きあがることはなく、恐怖心が命令するまま化け物たちに次々と背を向けた。


「ま、待って!!」


 そんな彼らに、絵理はすがるように大きな声を出した。先ほどの衝撃と転んだ時の痛み、そして恐怖で腰が抜けてしまったのか、立ち上がることもできない。


 しかしその声に応えるものはおらず、そこにいた全ての人間が巨大な芋虫の化け物に向き直ることなく駆け出した。何人かは申し訳なさそうに絵理の方を一瞬見たものの、やはりとった行動は同じであった。絵理を見捨てて、この場から逃げたのである。


「そ、そんな……た、助けて……置いてかないで……!!」


 あふれだした涙をぬぐうことも忘れて、絵理は遠ざかる仲間たちの背中を呆然と見つめた。


 そんな絵理に近づくのはいくつかの這いずる音と、シュウシュウという不気味な息遣い。


 見てはいけないと思いつつ、そちらの方に顔を向けてしまう絵理。


 向けた視線の先では巨大芋虫がゆっくりと這い寄ってきている。その体に目らしき器官はついていないが、確実に絵理を認識していた。


「ああ……」


 目の前の巨大芋虫は明らかに自分を捕食しようとしている。絵理は倒れたまま必死に後ずさった。しかしそんな程度ではもちろん這い寄る芋虫から逃れることはできない。


 絵理の間近まで迫った巨大芋虫はついにその大きな口を開けた。丸い口の周りに生えているたくさんの長いキバは、巨大芋虫の歓喜を表しているかのようによだれのような液体で濡れていた。


 絵理は歯をガチガチと鳴らし、もはや動くこともできず迫る化け物の大口を見守るしかなかった。


ファイアーボール(爆火球)!」


 しかしその瞬間、誰かが発した絵理が聞いたこともない言葉と共に、突然彼女の視界の一部が紅蓮色に包まれた。それと同時に爆音が周囲をつんざき、絵理を飲み込もうとしていた大きな口が彼女の目の前から消え失せる。


 もはや現状についていけない絵理の耳に、ふたたび先ほどと同じ言葉が聞こえ、さらなる紅蓮の色が絵理の目の前で炸裂した。そして吹き飛んだのは二体目の巨大芋虫。


 今度こそは絵理にも何が起きたのか分かった。赤い球体が巨大芋虫に着弾し、そこから大きな爆発が起きたのである。


 脅威に感じたらしい三体目の巨大芋虫は首をもたげたものの、やはり同じように飛来した赤い球体の直撃を受け、爆裂四散する。


 いつの間にか、絵理の前に生きている巨大芋虫は一体もいなくなっていた。今では化け物の残骸がびくびくとうごめくだけであった。


「大丈夫?」


 急にかけられた声に、絵理はびくんと体を震わせながらもそちらを見た。視線の先には見覚えのある男子の姿がある。


浅海あさみくん……?」


そう、絵理のクラスメイトの一人、浅海あさみ透夜とうやであった。


「……………………霧島さん……だっけ?」


 自分がやや地味なほうであることを自覚してはいたものの、それでも目の前の男子から名前が出てくるまでにかかった時間に、先ほどまで命の危険があったことも忘れて傷つく絵理であった。

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