10 再始動
暫く、二人、沈黙を貫いていた。
その間に僕の心はだいぶ落ち着いたらしい。…死に何も思わないというのも間違いじゃないかもしれないな。
「悪かった。」
僕はそう言ってここを後にしようとした。
「待ってください。行く前に、経験を昇華していきませんか?多分いい感じに溜まっているはずです。」
その言葉で思い出す。そういえばそんなことも言っていた。
「その、経験昇華?はなんの役に立つんだ。僕はまだ少し採取して死んだだけで大した経験もしていない。」
少し死んだ、を強調して言う。僕はこんなに性格が悪かっただろうか。
「その、死ぬ、と言うことが大事なのです。普通、人は死ぬことを経験できません。そこで終わりだからです。逆に言えば貴方は既に何度もそれを経験しています。十分溜まっているでしょう。」
一理ある。が、こいつもう完全に立ち直ってやがる。僕の皮肉を軽く躱しやがった。
「ならどうすればいい。それにそれをすることのメリットは聞いてない。」
「前に少し話しませんでした?昇華をすることで魔術や身体能力、精神の強化が行えるんです。ただし、経験したことに関する強化しか行なえません。剣の素振りの経験なら剣術の経験として、魔術を体験したなら魔術に関連した経験を得ることができます。その中でも死とそこから蘇生するということは魔術と密接に関わってます。なのでもしかしたら魔術が使えるようになっているかもしれませんね。」
…魔術、魔術か。確かに使えたら悪くないのかもしれない。
「…なら、頼む。」
まぁデメリットもないし頼まないことがデメリットだ。それに自分の力だけでどうにかなる訳もなく。意地を張っても無駄だろう。
「ではこちらへ。」
彼女の前まで行く。
「嫌かもしれませんがここで跪いてください。ただ座るだけでも構いません。そして今までの経験を思い出しながら力を欲してください。」
…僕は。…僕はもうあんな経験したくない。僕は、あれをどうにかできる力を…あれに殺されない力を…
「はい。終わりました。メニューから強化された内容が分かるはずです。どうでしたでしょうか?私にはわからないんですよね。」
…メニュー、開いてみると未読マークが現れていた。そこに触れる。そこには。
経験昇華
・体力を1増加
・観察力を1増加
・魔力を3増加
・魔術:気配察知を習得
・気配察知
魔力を1消費。1時間、周りの気配に敏感になる。
…体力、観察力はわかる。数時間歩き回ったしかなり色々なものを見た。だからだろう。だが魔力?そして気配察知。さっき言っていたことなのだろうがよくわからない。僕は敵を倒す力を願ったはずだが…
「ふむ…順当に身体能力が上がって新しく魔術まで習得できましたか。順調ですね。」
彼女は僕のメニューを覗き込むようにしてそう言った。
「これで順調なのか?これじゃあいつらを倒せもしないし魔術は効果も曖昧で使えるようには見えないんだけど。」
「二日でここまでできれば十分ですよ。普通なら魔術を習得するのにどんな基本の物でも数年はかかります。やはり地球人は魔術の適性がかなり高いのでしょうね。」
どうやらそうらしい。ただこれでは結局。
「…ですが、まだ魔獣には勝てませんね。暫くはこれを使って探索して魔獣を避けていくって方針ですかね。これなら思ったより早く魔獣討伐まで行けそうですが。」
そうだろうな。だが魔獣討伐?あれを討伐しろというのかこいつは。冗談きついな。
「そんなの無理だって顔してますね?私は可能だと思いますよ。早ければ一月以内にも行けるかもしれません。この速度で魔術を覚えていけば森での生活も可能でしょう。魔獣以外にも動物はいますからそれらを狩っていって力をつけていきましょう。」
…どうやら本気のようだ。この後も暫く問答が続いたが悪足掻きのようなもので見苦しいので割愛する。
そうして僕はまた、新しい力を手にして、あの森の攻略を再始動するのだった。
設定的なもの
この世界に残っているのはほとんど魔獣ですが地下や山などに人間は隠れて暮らしています。
なので全滅ではないですね。
また大きな獣は大体魔獣に狩られてしまってほとんどいませんが小動物は隠れながら生きることで割と普通にいます。
ただ隠れているので生息数が同じでも見つけづらいですね。
後魔獣達は海水や流水などが苦手で近づくことが困難です。
そのため川や海には魔獣が居ないことが多く外敵の居ない魚達は優雅に暮らしています。
例外として元々水に親しい獣が魔獣になると近づくことができてしまうのですが獣の魔獣化と水に近づけるようになる条件はまた今度ということで。